南海トラフ巨大地震が発生するとどうなるのか?

1995年に起きた阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災。日本は長い歴史の間、幾度となく大きな地震の被害を受けてきました。近い将来、南海トラフ巨大地震と呼ばれる大きな地震が発生する可能性が高いことは皆さんもご存知でしょう。

地震が起きれば南海トラフ巨大地震がSNSのトレンドに載る、そんな国に住む皆さんはこの地震がどういうものなのか知っておくべきです。南海トラフ巨大地震はどのような地震なのでしょうか?また、どれくらいの被害が想定されるのでしょうか?

今回は、南海トラフ巨大地震が起きるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。

まず、なぜ南海トラフ巨大地震が起こると考えられているのでしょうか?そもそも正確な地震の予知は現代の科学では不可能なはずです。大きな地震が起きると言われてもにわかには信じがたいという人もいることでしょう。

四国の南の海底にあるおよそ深さ4000mの溝が南海トラフ。この地域ではフィリピン海プレートとユーラシアプレートが接しており、海側のフィリピン海プレートが陸側のユーラシアプレートの下に沈み込んで、海底に大きな溝状の地形を形成しています。

海側のプレートは1年に数cmずつ沈み込み、それに引きずり込まれて陸側のプレートが沈み込みます。このひずみが蓄積された結果、陸側のプレートが耐えきれなくなって跳ね上がることで地震が発生します。

フィリピン海プレートは移動を続けているため、南海トラフでは大規模な地震が繰り返し発生するのです。事実、南海トラフ付近では過去におよそ100年〜150年間隔で巨大な地震が繰り返し発生しています。

前回の南海トラフを震源とする地震が1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震。これらの地震からは、すでに75年が経過しています。過去を遡ると、この場所での地震は、間隔が90年だったことも200年以上空いたこともさまざま。すでに南海トラフ巨大地震が発生する時期になっていると考えてもおかしくないのです。

では、実際に南海トラフ巨大地震が起きると何が起こるのか、想定されている被害についてご紹介します。

地震調査委員会の時間予測モデルによる評価によれば、今後30年の間、マグニチュード8〜9クラスの地震が発生する確率は60%~70%であると計算されています。しかし、この計算は2013年のものであり、すでに8年が経過しています。年々1%程度ずつ高まると考えられているため、現在はより高い確率で巨大地震が発生する可能性があるのです。

また、過去の地震の研究から南海地域で発生する地震には多様性があることも指摘されています。例えば、南海トラフを震源とする地震と同時に東南海でも地震が発生するという地震の連動や、震源域の分布が多様であることなどが挙げられます。

南海トラフ巨大地震はこのような特徴から震源域の推定が困難となっています。堆積物の分析からは記録が残るよりもさらに前から地震は起きていて、記録上最大の地震よりも大きな地震が起きた可能性も示唆されています。

南海トラフで起きる最大クラスの地震はマグニチュード9.1にもなると予想されています。このような最大クラスの地震は100年〜150年の周期よりも長い周期で発生しており、マグニチュード8クラスの地震と比較しても発生確率は10分の1以下であると予想されています。

内閣府の南海トラフの巨大地震モデル検討会によって各地の震度と津波について推定されています。この推定では次に発生すると考えられている地震よりもさらに規模が大きい、最大クラスの地震による被害を想定しています。次に起こる地震が最大クラスのものである確率もゼロではなく、想定外は許されないためです。

先ほどご紹介したように、過去の南海トラフで発生した地震は多様性があり、震源域の特定が難しいため、4つのケースで震度分布が推定されています。それらを重ね合わせてまとめたものが想定される最悪の震度分布です。

南海トラフ巨大地震が発生すると、神奈川県西部から宮崎県にかけて震度6弱以上の強い揺れが観測され、沿岸部では震度7の地域もあると予想されています。福島県より西側はほとんどすべての地域で震度4以上の揺れが観測されま

す。震度6弱は立っているのも困難で、耐震性の低い木造建築は傾いたり倒壊したりするような大きい揺れです。震度7ともなると多くの建築物が倒壊してしまうことでしょう。

内閣府の推定には長周期地震動と呼ばれる揺れについては考慮されていません。南海トラフ巨大地震のような強い地震では周期の長いゆっくりとした揺れが発生します。このような揺れは高層ビルと共振しやすく、ビルの高層階では長時間に渡り大きくゆーらゆらと揺れることが想定されます。名古屋や比較的揺れの小さい首都圏でもビルの高層階で震度以上の被害が出る可能性が考えられます。

とはいえ、巨大地震において最も恐ろしいのが津波。日本に住む皆さんであれば、東日本大震災での記憶は鮮明でしょう。津波については11のケースで津波高が推定され、最悪の津波高はそれらを重ね合わせてまとめたものです。

満潮時には、静岡県から鹿児島県という太平洋側の広い地域で10m以上の高い津波が予想されています。また、静岡県から四国の沿岸部ではなんと20mを超えると予想されている地域もあります。また、津波の到達時間は最も早い地域で2分。

これは震源域が陸地に近いためです。東日本大震災では津波の到達に早くても25分だったので、より一層素早い避難が必要となることでしょう。

これらの推定をもとに具体的な被害も想定されています。地震発生直後はまず、住宅の倒壊、津波の被害、火災といった地震による直接的な災害が震源に近い地域を中心に発生します。

また、南海トラフ巨大地震による死者は最大で32万3000人にも登ると見られています。これは東日本大震災のおよそ16.4倍。およそ5万9000人が地震や建物の倒壊によって、22万4000人が津波によって命を落とすと予想されています。

さらに、全壊または焼失する建物は最大238万6000棟です。全壊する建物数に関しては東日本大震災の17.5倍となります。このように、未曾有の被害を出した東日本大震災と比べても非常に甚大な被害が想定されているのです。

被害は建物や人だけに収まりません。電力、通信、水道、ガスといった多くのライフラインが被害を受けます。特に、被害の大きい地域ではすべてのライフラインのおよそ9割が機能を停止されることになります。

被害を受ける数を一度にご紹介します。上水道は3440万人が断水し、下水道は3210万人が利用不可に。2710万軒が停電し、東海三県や近畿地方では9割が停電。さらに、都市ガス180万戸の供給がストップ、固定電話は930万回線が通話不能

。また、南海トラフ巨大地震による経済的被害は169.5兆円にも登ると考えられています。経済活動の低下によって44.7兆円もの損失が出るため、経済損失の合計は214兆円、国家予算の2倍以上です。

南海トラフ巨大地震は発生確率が高い事がわかっている地震。もちろん日本政府も多くの対策を行っています。今回ご紹介したような被害想定だけでなく、常に南海トラフ付近を観測し、異常な現象があれば詳細な調査がなされています。

これに伴い、「南海トラフ地震に関連する情報」が発表されています。日本にはこんなことがあるでしょう。「備えあれば憂いなし」来たるXデーに備えて、何かしらの準備をしておくべきでしょう。しかし、悲しきかな、運命(さだめ)は変えられないのかもしれません。



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