最新の調査によると、経口避妊薬(ピル)は女性の脳の構造をわずかに変化させる可能性があることが明らかになりました。
ピルを服用する女性の視床下部は服用しない女性より小さいことが研究の結果、明らかとなりました。視床下部は脳の奥にあるエンドウ豆大の構造体であり、食欲、体温、感情などの不随意機能を調節する働きがあります。また、ホルモンを生成する分泌腺のネットワークである内分泌系と神経系をつなぐ機能も持っています。
国連経済社会局が行った2019年の調査報告によると世界の約1億5000万人の女性が経口避妊薬を使っているということです。
ピルは広く使われているにもかかわらず、脳への影響を調べた研究はほとんどありません。「これは研究が十分に行われていない分野です」とこの調査を率いたアルバート・アインシュタイン医科大学の放射線学教授マイケル・リプタン博士は言います。
北米放射線学会の年次大会で12月4日に発表された、この最新の研究はピルの視床下部への影響を初めて調べたものです。視床下部の大きさを測定するために50名の女性のMRI 検査が行われました。その内の21名は混合型ピルを服用していました。混合型ピルは合成されたエストロゲンとプロゲスチンを配合した一般的な経口避妊薬です。
研究チームは、また、対象者の気分、性格、認知機能といった特徴を評価するためにインターネット上で面談し、標準テストを受けてもらいました。
調査の結果、ピル服用者の女性の視床下部は非服用者の女性のものより平均で約6%小さいことがわかりました。脳の一部位としては「かなり大きな違いです」とリプタンはコメントしています。
視床下部が体の内分泌系を調節するホルモンを生成すると考えれば、調査結果はまったく驚くべきものではないと、オハイオ州立大学の産科学および婦人科学の准教授ジョナサン・シャフィアは述べています(この研究には関与していません)。
経口避妊薬は視床下部にエストロゲンやプロゲスチンを分泌する必要がないと伝えているのかもしれません。実際に、性ホルモンが神経細胞の成長を促すことを事前調査が示していたとリプタンは表明しています。一つの仮説は、ピルに配合されている合成ホルモンがそのような作用を妨げ、脳細胞の成長率が下がるというものです。
とは言え、視床下部が小さくなると正確にはどのような影響があるのか、そのすべては明らかになっていないとリプタンは指摘しています。ピルを服用している女性の脳は服用していない女性の脳より全体的には小さくはなく、知能も影響を受けていないという調査結果でした。ただ、視床下部が小さいほど怒りや鬱病の症状が増すという関連性は見出されました。
しかし、これらは小規模な調査から得た予備的結果であり、因果関係を証明するものではないとリプタンは警告しています。つまり、ピルが視床下部の縮小の直接的原因になっているとは証明できないということです。
実際に、脳へのピルの影響は不確かなままです。この調査を初め、相次ぐ証拠報告から、ピルの使用を続ける女性の脳の特定部位に大きさの違いがあることが窺えると、ロサンゼルスにあるカリフォルニア大学で神経内分泌学を研究するニコウル・ピーターサンは言っています(この調査には不参加)。
しかし、このテーマについての調査結果は必ずしも一致していません。ピーターサンによると、ピル服用者の方が脳の諸々の構造体が小さいことを示唆する研究がある一方で、ピル服用者の方が脳の各構造体が大きいか、大きさにほとんど差がないことを明らかにする研究もあるということです。
もし、経口避妊薬が脳に影響を及ぼすのだとしても、どのように作用するのかについて結論を下すのは時期尚早であり、あえて言えば、この調査結果はさらなる調査を必要とする問いを単に指摘するに過ぎないのかもしれないとリプタンは述べています。
reference: livescience