新型コロナウイルスによるロックダウンで人類の3分の1が影響を受け、世界はその動きを止めようとしています。人々が感染防止のため外出を控える中、工場は閉鎖され飛行機も運航を停止。中でも中国とイタリアにおける汚染の減少は衛星写真でも見てとることができ、気候学者は伝染病が私たちの環境に与える影響を定量化しようとしています。
「今年の二酸化炭素排出量が5%以上減少したとしても驚くには当たりません。これは第二次世界大戦終結時以来のレベルです。」グローバル炭素プロジェクト議長を務め、カリフォルニア州スタンフォード大学で地球システム科学を専門とするロブ・ジャクソン教授はロイターの取材に対してこう答えています。「ソビエト連邦の崩壊も過去50年の石油危機や財政危機も、炭素排出に対してこれほどの影響を与えることはありませんでした。」
しかし観測された変化は異常な状況下でもたらされた現象であって、何かが構造的に変わったわけではありません。このため気候学者は排出量の減少が一時的なものであり、コロナウイルスが蔓延する以前のレベルに戻ってしまうだろうと考えています。
「ウイルス対策で工場や輸送機関が閉鎖され、温室効果ガスの排出が物理的に減っている点については広く認識されているところです。」レディング大学の気候司法センター長を務めるクリス・ヒルトン法学教授はこう解説します。「しかしこれは中国の都市部における空気の清浄化や、水運とクルーズ船が途絶えたヴェネツィア運河の水質改善、あるいはロックダウンで人間の介入が減ったことによる自然の回復など他に広く見られる副作用と同様、一時的かつ一度限りのものなのです。」
他の研究機関も現在観測される温室効果ガス排出量の減少と、2007年から2008年にかけて起きた世界的な金融危機時の状況との類似性を指摘しています。当時は排出量が1.5%減少したものの、回復時には5.1%の増加が見られました。
今も中国主要6社の石炭消費が通常に戻った時点で、既にこの種のリバウンドが観測されています。「過去にはグローバル経済の減速で排出量が減少したこともありましたが、景気後退が終われば例外なく元に戻ってしまいます。」ブレイクスルー研究センターの気候エネルギーアナリストであるシーバー・ワン氏とゼーケ・ハウスファーター部長は、ウェブサイトでこう述べています。
ブレイクスルー研究センターはGDP予測値を用い、コロナウイルスの流行による二酸化炭素排出量の減少分を0.5から2.2%の間と試算しました。しかし昨年11月、2030年の気温上昇を1.5度に留めるとしたパリ協定の目標を達成するためには10年間毎年7.6%の排出量削減を要するとの報告を国連が出しており、全体の中での影響はわずかでしかありません。ワン氏とハウスファーター部長は「私たちの予測では伝染病による気候の改善という希望の光は幻に終わる」と結論づけています。
パンデミックの現状にかんがみ、今年後半に予定されていたCOP26気候変動枠組条約締約国会議は2021年に延期されました。政府が新型コロナウイルスとの戦いに集中し、会議が必要な注目を集められる方が良いと考える科学者はこのニュースを歓迎しています。
reference:iflscience