命を持つもの全てが、いずれ必ず体験するであろう死の瞬間。呼吸をし、心臓を動かしている私たちの体がその機能を止めるとき、私たちの意識はどうなっているのだろうか。
2014年10月、英サウサンプトン大学の研究チームが学術誌『Resuscitation』に発表した論文によると、イギリス、オーストリア、アメリカなどで、心停止から蘇生した患者330人のうち、101人に対して聞き取り調査を実施。その結果、39%の患者が、心臓が停止している間にも意識を自覚していたとの結果が見出されたのだ。
さらに、患者の1人は研究者らが3分間隔で鳴らしたブザー音を「2回聞いた」とも証言した。その調査結果からは、人は心停止の後も周囲の音を認識していることが推測できる。
2007年に米ニュース雑誌『TIME』に掲載された、複数の米病院からの調査報告によれば、病気や事故で心停止が起こり、緊急治療によって蘇生した人の4~18%が『誰かが耳元で名前を呼んでいる声が聞こえた』と証言しているという。
細胞内に酸素があるかぎり、脳もしばらくは働いている。個体の死、つまり統合性が失われていても、脳にまだ酸素があるうちは最後まで活動しようとするのである。
心臓の停止が確認され、お医者さんに「ご臨終です」と告げられた後も、残された家族が悲しむ声が本人に伝わっている可能性があるのだ。ただ、それを統合的に理解するだけの酸素量が脳に残っているかはむずかしい問題となる。
とはいえ、もし死者に周囲の音が聞こえているのだとしたら、家族や恋人などの大切な人たちに別れの言葉を伝えられることで、安らかに旅立つことができるのではないだろうか。