ポーランド西部にある今は使われていない核シェルターで、主要コロニーから切り離された状態で、内部に落ちた数十万匹の働きアリが、死んだ仲間を共食いすることで何年も生存することに成功しました。
研究者たちは2016年にシェルターを訪れた際に発見した約100万匹ものヨーロッパアカヤマアリ(学名:Formica polyctena)の働きアリの様子を語りました。彼らの主要コロニーは、シェルターの通風管上の地上部分にある盛り土の中にありました。しかし、不運なアリたちが通風管を伝ってシェルター内に落ちてしまったのです。通風管が天井についていたため、床に落ちたアリは再び登って戻ることができませんでした。
真っ暗なシェルターの中には食べ物は何もありません。2016年、研究者たちは、アリは死んだ仲間を共食いすることで生き延びてきたと仮説をたてました。そしてシェルターに戻り、閉じ込められたアリの調査を続け、彼らが仲間の死体を食べているという証拠を探したのです。
研究者が2016年に行った報告によると、このシェルターはドイツとの国境近くにあるかつての核基地の一部で、旧ソビエト軍が1960年代後半から1992年まで核兵器を保管するのに使用していたそうです。
研究者は、「2015年7月に行われた調査では、シェルター内のヨーロッパアカヤマアリの数は、少なくとも数十万、おそらく100万匹近くいたと推定される。」と11月4日付けのJournal of Hymenoptera Researchで述べています。数千匹のアリが、シェルターの床や壁を動いていましたが、この監獄の唯一の出口である天井の通風管には到達することはできませんでした。
シェルターには、アリの蛹や幼虫、女王アリはおらず、女王アリのいないコロニー内での繁殖はありえません。研究者によると、むしろ、外にある主要コロニーの活動時間に、定期的にアリが開いた通風管を通って継続的に落ちてくるため、増え続けるのだということです。
働きアリは、通常、巣分かれはせず、女王アリなしの新しいコロニーは作りませんが、シェルターに閉じ込められたアリたちは、「選択の余地がなかった」と研究者は述べています。「彼らは、極端な環境によって設定された条件で、単に生き残り、社会的任務を果たし続けているだけだ。」ということです。
新たな研究のため、研究者たちは「墓場」、すなわちシェルター内のコロニーの床や壁付近に積み重なった死体の山から150匹以上のアリの死体を集めてきました。腹部にかじった痕があれば、共食いしたと考えられます。調査の結果、死体の大多数(93%)に共食いされた痕が発見されました。
アリたちの解決策は残忍なものでしたが、実はこの種における共食いは珍しいものではありません。ヨーロッパアカヤマアリは「アリ戦争」を繰り広げることで知られています。
研究によると、食料が不足する早春に、他の種のアリと激しい戦いを繰り広げると言います。倒れた兵士の死体が山積みになると、働きアリは死体を巣に引きずり込んで、幼虫に与えます。また、「巣に持ち込んだ死体は食料が不足している期間以外でも、重要な栄養源として役立つ可能性がある」と研究者たちは語ります。
研究者によると、シェルターでは、死体は尽きることのないビュッフェであり、アリたちは食料が無くても生き延びることができたとのことです。
これはシェルターのアリたちにとって過酷な条件でしたが、一応(少なくとも食べられなかったアリにとっては)ハッピーエンドです。調査を行った著者は、何かアリたちが家に戻れる方法はないかと考え、2016年にシェルターの床から通風管の入り口まで垂直に伸びる木の杭を設置して、木の道を作りました。
2017年に研究者たちがシェルターに戻ったときには、ほとんどのアリが新しい脱出ルートを使い脱出していました。調査によれば、以前数十万匹のアリたちがうごめいていたシェルターは、ほとんど何もいない状態でした。恐らく、アリたちは本来のコロニーに合流できたのでしょう。
reference: livescience