新たなブラックホール探索メソッドが実を結びました。中国科学院・国家天文台が、1万5000光年先に太陽質量の70倍もの質量のブラックホール を発見しました。しかし、現代の恒星進化論から見てこの大きさというのは少なくとも天の川ではありえないものなのです。
この研究に関する論文は「nature」に11月27日付けで掲載されています。
我々の銀河系で最も重い質量の星の化学組成が示唆しているのは、星の核がブラックホールに飲み込まれることによって崩壊するより前に、爆発と強力な恒星風によってその質量のほとんどを失ってしまうということです。
ブラックホールが作られる可能性のある質量の重い星は、恒星の核を完全消滅させる対不安定型超新星でその寿命を終えると推測されています。そのためLB-1と名付けられたこのブラックホールがなぜこんなに巨大化したのか研究者たちは頭を抱えています。
「現代の恒星進化論によればこれほど大きな質量のブラックホールは我々の銀河系に存在さえしないはずなのです。」と中国国立天文台の天文学者ジフェン・リュー氏は言います。
「LB-1は想定しうる大きさの2倍ほどあります。研究者らはこのブラックホールの形成を説明するという課題に取り組む必要があります。」
そして、このブラックホールを発見した方法というのは実に高性能なものでした。
通常ブラックホールというのは活動的に光る、つまりスペクトラム内を横切って、いくつかの波長で光を放たないと観測することができません。我々が検出可能な放射線を放つこともないですし、光も電波もX線も何もかも放出しないからです。
それはつまり、ブラックホール検出キットなるものを我々は持っていないということなのです。
遡ること1978年、英国人自然科学者ジョン・ミシェル氏(初めてブラックホールの存在を提唱した人物)は連星(二つの恒星が両者の重心の周りを軌道運動する天体)のように光を放つものがブラックホールを軌道運動している場合には検出可能ではないかと主張しました。
現在ではこの手法がドップラー分光法として知られ、重力の影響が小さいことで観測しにくい太陽系外惑星の存在を確認する主要な方法の一つとなっています。
リュー氏と彼の同僚らは中国にあるLAMOSTと呼ばれる望遠鏡を使用して、こういった不安定な星を探索し、主系列星の巨大な青い星を発見しました。
しかし、科学者らが発見した星の驚くべき性質を明らかにするため、スペインのカナリア大望遠鏡とアメリカのケック天文台での継続した観察が必要となったそうです。
3500万歳で太陽の8倍の質量を持つその星は79日周期でブラックホール軌道を周回し、これを研究者らは「Surprisingly Circular」と呼んでいます。
さらに同様の質量のブラックホールが62太陽質量という数値で観測されました。(これは連星間で二つのブラックホールが衝突して誕生したGW150914)また、今までに初めて検出された重力波です。これは天の川でのことではありませんが、今回発見された巨大ブラックホールが誕生した理由の一つの仮説となります。しかし、新たに発見されたLB-1にはいまだ連星が存在します。
そこで研究チームは、この謎に対して2つの仮説を提唱しました。1つめのシナリオは2つのブラックホールが衝突した際に形成された連星であり、その後星が現れた説です。ですが、この説では非常に歪んだ機動を描くはずなので、伴星の円軌道に支障をきたすことになります。時間の経過によって機動の歪みが矯正されることもありますが、それにはこの星の年齢以上の時間が必要となります。
もうひとつの説は、死につつある星から落下した物質がその星自体の重力で再び取り込まれ、直接ブラックホールが形成されたというものです。ですがこれはある一定条件の下では説明がつきますが、現在直接証拠となるものはありません。
おそらく研究者の論文で述べられたLB-1は、この直接的な証拠となるかもしれないのです。とはいえ、LB-1は突如天の川で最も興味深い研究対象となり、追跡調査が続々と行われることでしょう。
「この発見によって我々はどのように恒星質量のブラックホールが誕生したのかを調査しなければならなくなりました。」と今回の研究に参加しなかったフロリダ大学LIGOディレクターのデビッド・ライツ氏は話しています。
reference: sciencealert