私たち人間は意思によって骨格筋系をコントロールできることが多いのですが、少なくとも1カ所、通常は思い通りにできない筋肉があります。内耳にある鼓膜張筋の場合、ほとんどの人が自分の意思で収縮させることはできません。
耳管上方に位置する小さな鼓膜張筋を収縮させられる人たちは、特殊なスキルに通じています。耳に低い、雷のようなとどろき音を生じさせることができるのです。
この事実は新発見というわけでもありません。意図的な筋肉の収縮によって音が発生できることは、生理学者ヨハネス・ミュラーが1842年に著した「生理学原理」第2巻の1,263ページでも論じられています。
ただ自分にとって自然なことが他人にとっては異様であったり、またその反対だったりすることは多々あります。結局は「人」という言葉でくくられるカテゴリーの中にも多くのバリエーションがあるということでしょう。
科学分野のツイッター・アカウントを運営するイタリア人エンジニアのマッシモは、一方が他方の存在に気づいてもいなかった「持てる者」と「持たざる者」を取り上げることでネット上の反響を呼んでいます。
ある種の人々は自分の意思で耳の奥にある鼓膜張筋をコントロールできます。この筋肉を収縮させると振動と音が発生します。よく言われるところではとどろき音のようなものらしいです。
鼓膜張筋は聴覚にとって重要な役割を果たしています。 私たちが音を聴くときには鼓膜が振動し、これが槌(つち)骨、砧(きぬた)骨、鐙(あぶみ)骨という一群の骨を介して内耳に伝わります。
槌骨は最も鼓膜に近く、膜の振動を砧骨に伝えます。そして鼓膜張筋は槌骨につながっています。これが収縮すると槌骨が離れて鼓膜の張力が増し、振動の余地が制限されることによって、内耳に伝わる音が減衰するのです。
鼓膜張筋は大きな音がすると反射的にこのような動きをし、内耳にある聴覚細胞の損傷を防ぐと考えられています。
またこの筋肉はさらに2つの役割を持つと考えられます。まず低い周波数の音を抑えて高い音を聴きやすくすること。もう1つは噛む、咳をする、話す、あくびをするなど自分自身の生み出す音に反応して少し収縮し、自分の体のせいで聴覚障害を起こさないようにすることです。
鼓膜張筋が収縮する時に聞こえるのは文字通り自分自身の筋肉の音です。意図的に収縮させることができるとすれば、それがノイズを抑える効果はまるで手を使わずに耳を覆うような感じでしょうか。
もし何が起きているのか理解できなければ驚きもするでしょう。2013年に報告された例では病院を訪れた27才の男性が「自分の意思で左右の耳鳴りを起こせてしまう」と訴えたのですが、自らの意思によって左右の鼓膜張筋を収縮させることができただけで、耳に聞こえるとどろき音は心配には及ばないものでした。
自由に耳鳴りを起こせない私たちにも、それがどんな感じなのか知る方法があります。大きなあくびをすると強いごろごろ音がするでしょう?それが鼓膜張筋の収縮です。素敵じゃないですか?
reference:sciencealert