政治知識が乏しい人の方が自分が政治に詳しいと思っているという研究結果

政治についてよく知らない人ほど政治の知識があると自信を持っているということを示す調査論文が科学ジャーナル・サイト『ポリティカル・サイコロジー』にて公開されました。この調査により、特定の政党への帰属意識が高まる際にこの傾向が強まることが明らかになりました。

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「何らかのテーマについての知識がほとんどない人が、逆接的なことですが、その話題についてよく知っていると最も自信を持っているものなのです。これをダニング=クルーガー効果といいます。その一方で、博識な人たちは自分の知識を過小評価しています」と、この論文の著者である、米国メリーランド州ボルティモア郡のメリーランド大学助教のイアン・アンサン氏は説明しています。

「2016年の米国大統領選挙運動の期間中に他の学者たちがツイッターでこの選挙について議論しているのを見てダニング=クルーガー効果にますます興味を持つようになりました。SNSで評論家のように発言している階層が選挙について大げさな表現でコメントしていることに『ダニング=クルーガーの傾向』が現れているようでした。このことに驚いた多数の政治心理学者たちのツイッターのアカウントをフォローすることにしました」

「そのような学者たちの投稿の多くは明らかに皮肉を込めたものと思われました。やはり、ある人が『自分の無知に無知である』という考えは、特に政治の分野ではかなり厳しい非難となってしまいますから」とアンサン氏はに語っています。「大統領に選出されたトランプ氏が、ほとんど何も知らないと思われる事柄について信じられないほど自信を持って見解を述べているようであったため、選挙後のある時点から、トランプ氏の大統領としてのあり方をダニング=クルーガー大統領職と呼ぶ人々が現れ始めました」

「ダニング=クルーガー効果に言及するこの種の投稿をスクロールして読んでいるときにあることに気づき、衝撃を受けました。政治科学関係の出版文献ではダニング=クルーガー現象に論及したものが、もしあったとしても非常にわずかしか目にしたことがなかったのです。そのことに気づいた時点で、政党帰属意識を動機とする思考の枠組みの研究と並行して、政治的知識の豊かさに関する考察にこの理論を応用する方法を考え始めました。熱心に政党を支持する思考の枠組みに関する理論は私が以前行った調査の中心的主題となっていたのですが、熱烈な政党支持者が自分の政治知識に自信過剰になりがちかどうかということに私は特に関心を持っていました」

アンサン氏はこの研究のために2,606名の成人アメリカ人を対象とする、二つのオンライン調査を行いました。

政治知識の豊富さを測るテストによって、アンサン氏は参加者の評価を行いました。質問は以下に関するものです。米国の上院議員の任期の年数、エネルギー省長官の名前、医療に関してより保守的な立場を取っている政党、下院で現在、多数派となっている政党、4つのプログラムのうち、米国連邦政府が負担する費用が最小なもの。

この政治知識テストでは、大半の参加者が低い成績を収める結果となりました。また、成績の悪かった参加者ほど自分の出来を実際より高く評価する傾向がありました。

「多くのアメリカ人が政治の世界について、本当はどんなにわずかにしかわかっていないのかということを知る機会がないため、自分の政治的知識に極めて過剰な自信を持っているようです(これは、無能であるゆえに自分の無能を認識できない「無能力の二重拘束」というものです)。しかし、そこに問題があるのです。共和党員と民主党員が支持政党を擁護する思考をする際には、この効果がそれ以前より強まるのです」とアンサン氏は説明しています。

「政治についての事実的知識が少ない政党支持者は、反対政党の支持者だらけの世の中についてじっくりと検討するときに自分が平均以上に情報通だとさらにいっそう強く確信するようになります。実際に、反対政党の架空の支持者が受けた政治知識のテストを「採点」するように政党支持者らに頼んだところ、政治知識の乏しい調査対象者が実知識より支持政党の持つ偏見をはるかに強く反映する採点をしました」

「米国全般で政治論がまともに行われていないという事態があることをこの調査結果は示しています。ある政党の熱心な支持者が反対党の支持者に話をするときに自分と相手のどちらの政治知識も誤まって評価する傾向がかなりあります。たいてい、これは、相手が政治に極めて精通している場合でさえも、熱烈な政党支持者は自分の方がはるかに政治知識が豊富だと思い込んでいるということを意味します」とアンサン氏は述べています。

「現代の米国の民主主義政治において、政治論の崩壊がしばしば起こっているのを我々は目にしますが、そういったことを引き起こす主要な要因がこの無自覚な政治知識の欠如にあるのだと思います」

すべての調査と同様にこの研究にも限界があります。

「この研究はオンライン調査という形式で行われました。したがって、政党の熱烈な支持者が互いに対話するときに何が起きるのかを私が自分で実際に評価することはできませんでした。私がこの研究で導き出した結論を裏付けるためには、シンプルな政治知識テストを調査対象者に受けてもらい、自分がどれくらい正答できたと思うか尋ねるということをしました」とアンサン氏は言っています。

「それから、架空の他の回答者が受けたとする同じテストの『採点』をしてもらいました。現在、存在するダニング゠クルーガー効果の応用例の大半にかなり似ているとは言え、これは明らかに政治知識(および自分の政治知識に対する自信)を評価する方法としては非常に人為的なものです。将来的には、実験室に来てもらった参加者を調査する方式によって、政治論と『政治的自信過剰』について多くの興味深い事柄を学ぶことができるようになると思います」

この研究を進めるなかでアンサン氏は自身もこの効果の影響を受けていることに気づきました。

「この研究を行うことは奇妙で自己言及的なダニング゠クルーガー効果の実験でもありました。この効果についての文献を再読した際に自分がどれほど関連する知識を持っていないのかということを痛感し、そのために自分の自信を真剣に疑い始めたくらいです!ダニング゠クルーガー効果についての独創的な論文のひとつを読んだ際に著者たちが基本的に私と同じ体験をしたということがわかる脚注を見つけたのですが、これは興味深いことでした」とアンサン氏は振り返っています。

「おそらく、これもまた、『学術的詐欺師症候群』の結果でしょう。『学術的詐欺師症候群』は確実にダニング゠クルーガーに関連している現象ではありますが、論文に早々と肯定的な意見をいくつかいただき、とても感謝するとともに安堵しています。願わくは、今後の研究において『無能の二重拘束』を避け続けられますように!」

reference:psypost



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