恒星、地球から最も近い位置では「太陽」がそれにあたり、莫大なエネルギーを産み出す存在。太陽のエネルギー量は効率的な原子力発電所の10京倍、1秒間に核爆弾の1兆倍というエネルギーを放出する。
人類を含む地球上の生命が利用しているエネルギーは地熱や原子力などを除くと、元をたどればそのほとんどは地球に降り注ぐ太陽エネルギーに行きつく。火力発電に使う化石燃料も、過去の太陽エネルギーの産物である。しかし、太陽は全方位にエネルギーを放射し続けており、地球に降り注ぐのはそのうちごくわずか。人類が利用できる量はさらにその一部となっている。
そんな恒星から効率的にエネルギーを取得するために、恒星全体をぐるりと発電機で取り囲み、エネルギーを吸収するというロマンの詰まった仮説上の構造物が『ダイソン球』と呼ばれている。名前は、アメリカの宇宙物理学者、フリーマン・ダイソンが提唱したことに由来する。
ダイソン球は実現すれば、本当に夢のような発電方式なのだが、人類の現在の技術力では到底不可能であり、絵空事のような話。しかし、宇宙は広い。宇宙のどこかには、人間を遥かに上回る技術力を身に着けた知的生命体が存在し、ダイソン球を実現させてる可能性もあるだろう。
実は、ダイソン球の存在が疑われている星が発見されていた。
2015年に、今は引退したケプラー宇宙望遠鏡が地球から1480光年先にある「KIC 8462852」という恒星のおかしな挙動を発見した。その挙動というのは、非常に不規則な減光だ。周期性もなく、減光するときは一気に20%前後も暗くなることがあり、他の星ではこのような現象が見られたことはなかった。恒星の前を木星クラスの大きさの星が通過したとしても、全体の明るさのわずか1%の減光にすぎないのだ。そんなことから、高度な知的生命体によるダイソン球なのではないかと、真剣に考察されていた。
しかし、一年の月日がたち、コロンビア大学の研究者がダイソン球に代わるかなり有力な説を発表した。それは、「KIC 8462852」の減光はその惑星や衛星との衝突によるものだという仮説だ。
まず長期的な減光に関しては、星の衝突による重力エネルギーが星の核エネルギー生産を増強して光度が上がり、その後ゆっくり暗くなっていったことで起きたのだと説明している。そして短期的な減光は、惑星との衝突後、惑星の一部や衛星が偏心的な軌道上でデブリ地帯を形成しており、それが星と地球の間を通過するときに光が遮られて不規則に暗くなっているように見えるのではないかということだ。少し難しい話ですが、つまりはダイソン球ではなかった。人工的なものではなく、自然現象である可能性が高いという説で一段落したかのように思われた。しかし、事態は再び一変する。
「KIC 8462852」で、またしても妙な現象が確認されたのだ。
カリフォルニア工科大学とアメリカのカーネギー研究所による共同研究チームが、ケプラー宇宙望遠鏡で回収したフルフレームの写真を全て解析した結果、星が20%暗くなる奇行に加え、ここ4年間は光度が下がり続けていることが判明したのだ。
「KIC 8462852」の初め1000日分の観測記録では、年間約0.34%のペースで光度が落ちていたのだが、次の200日では2%ガクンと落ちる局面があり、ケプラー宇宙望遠鏡で観測した4年間全体で見ると約3%も落ちていたのだ。こんなに暗くなる星は異例であり、まったく説明がつかない。念のため付近の星500個も確かめてみたのだが、似た現象は確認されなかった。
その後、ペンシルベニア州立大学らの研究チームが世界中に設置された望遠鏡のネットワーク「ラス・クンブレス天文台グローバル望遠鏡ネットワーク(LCOGT)」を用い、タビーの星の減光量は波長ごとに異なっていることを明らかにした。これにより、減光は塵によるものである可能性が大きくなった。色によって減光量が違うということは、恒星と地球との間にある遮蔽物が何であれ、惑星や宇宙人による巨大構造物のような不透明なものではないことになるためだ。よって、現在は「KIC 8462852」がダイソン球である可能性は否定されている。しかし、この星の奇行の原因は今だ明らかになっていない。
「KIC 8462852」でのダイソン球発見の希望は失われたものの、無限に存在するこの宇宙のどこかで、今後ダイソン球が発見されるかもしれない。遠い未来に、我々人類が開発に成功しているかもしれない。ロマンのある未来に立ち会えることを期待したい。