脳の大部分がダメージを受けたり失っているにも関わらずほぼ通常通り生活を送っている人がいるなんて信じられないかもしれません。しかし、脳には失った機能を形成して補うこともあるのです。
脳の半分が失われた人々に関する新しい研究では、どのように半分の脳でマルチタスクをこなすことができるのかが明らかにされました。
カリフォルニア工科大学所属の神経学者ドリットクリーマン氏は「初めて会った人は彼らの脳が半分損失しているなんて思いもしないでしょうね」と言います。
「PCの前に座って脳の半分しか映らないMRI画像を見ていると、本当に私が研究に費やしてきた対象の人物の脳なのかといまだに驚きますね。普通に歩いたり話したりしているわけですから。」
研究に協力した6人の被験者は小児期に脳の半分を取り除くという衝撃的な治療を受けていました。これは大脳半球切除術と呼ばれる薬物療法も効かない、もしくは原因が半球にある発作が極端にひどい場合に行われる非常にまれな脳神経外科手術です。
「彼らができる事柄には本当に驚かされます。もちろんまだ課題はあるものの、脳組織が半分しかないことを考えると彼らの認知能力は依然として非常に高いものです」とクリーマン氏は言います。
今回の被験者のMRIスキャン画像と脳の一部を除去されていない正常な脳を持つ比較被験者6人を脳ゲノム超構造プロジェクトでスキャンされた1,482例の脳のデータベースと合わせて比較したところ、半脳しかない被験者の安静時の脳の活動パターンは正常な脳の活動パターンと全くと言っていいほど同じでした。
また、正常な脳と違っている点も発見されています。それは、大脳半球切除術を受けている被験者は脳のネットワークが通常の脳より多く張り巡らせてあったのです。
通常、これらのネットワークは注意、感覚、大脳辺縁系(感情や記憶)の活動を司り、しばしば右脳左脳にまたがって張られているものです。研究によるとネットワーク内の活動は運動制御機能と繋がっているのに対して、ネットワーク同士の接続は作業記憶などの管理に必要不可欠であるとのことです。
この接続内の増加は今回の6人の被験者に一貫して見られ、しかも異なるネットワーク間でも見られるものでした。例えば、注意に関するネットワークは視覚ネットワークへ接続されるといった事例が通常の脳よりも多く観察されました。同ネットワーク間の接続は比較対象の正常脳の被験者と同様でしたが、接続数が多く見られました。
カーネギーメロン大学の神経学者マーレンベールマン氏は「彼らのネットワークはマルチタスクをこなしているようですね」とニューヨーク・タイムズに語っています。
ネットワーク間の接続の増加現象は認知機能や意識を維持するために失った脳のハードウェアの機能を埋め合わせる様子を反映しているのだと研究者は論文で説明しています。
ただ、サンプル数が少ないため脳の活動と特定の行動、もしくはIQなどの認知能力との違いを結びつけることはできなかったそうです。
研究チームは今後の研究で、脳のネットワークがどのようにして損傷または欠損した脳の埋め合わせをしていくかを解明することを予定しています。
脳の接続が増加することによって、マルチタスクをこなす構造を理解することは、研究者が脳の損傷への治療法の発見に貢献するかもしれません。
reference: sciencealert