昨年、科学的実験としては初めて、海洋研究者たちが水深2,000メートルの海底にワニを沈めました。深海に潜む生物たちがこの初対面の珍しいごちそうを何だと思うのか、それを知るための実験です。今回、論文が発表され、セルフサービスのワニ食レストランで起こったことについての興味をそそる新たな詳細が明らかになりました。
去る2019年2月、米ルイジアナ大学海洋協会(LUMCON)の研究者たちが海に爬虫類動物を沈めるという史上初の実験を行いました。通常はクジラのような大型で栄養豊富な動物が死んだ後、その死骸が海底に沈むことが「落下」です。落下物は様々な深海生物にとってたいへんなごちそうとなります。
落下物にどんな生物が訪れ、いつ、何の生物が、何を食べるのかを観察することで、海洋学者は深海の生態系と食物網についての比類ない洞察が得られます。UMCONの研究チームはメキシコ湾の深海に棲む生物が、珍しい食料源にどのように反応するのか探求しようとしました。ワニは通常は淡水の環境で見つかることの方が多いのですが、必ずしもそうとは限りません。
「メキシコ湾に注ぎ込む二つの大きな河口があるというのが特に重要な要因となっているのですが、大洪水の際にはワニが湾の沖合いまで到達することがあります。そのことを示す非常に優れた証拠が実際にあるのです」と論文の著者の一人であるリヴァー・ディクサン氏は説明しています。「ですから、沖にワニが流れ着いていたことの有効な証拠はあったものの、それが深海にとって、どのような意味があるのかはわかっていませんでした」
科学雑誌『PLOS ONE』に今回、掲載された論文では、それほどまでに頑丈に包まれた状態で提供される食事に慣れていない腐肉食動物にとって、3匹のアメリカワニの硬い皮は軟組織を食べる妨げになる可能性があると推測されていました。しかし、そうではないことが判明したのです。
1匹のワニの上に何匹ものピンク色のダイオウグソクムシ(学名: Bathynomus giganteus)が群がっていました。ダイオウグソクムシは獲物の存在にかなり素早く反応すると知られている体長30cm余りの腐肉食動物です。ワニの皮を突き破り、内側から外側へ向かって食べ進めて、24時間以内にワニの体を通り抜けてしまいました。
2匹目のワニはわずか51日で肉をきれいにはぎ取られてしまいました。すべての軟組織が完全になくなり、脊柱と頭蓋骨しか残されていませんでした。けれども、これが、骨を食べる新種の蠕虫がいることの最初の証拠をもたらしてくれたのです。写真の中の赤茶色の毛羽のように見えるものです。ゾンビ・ワームと呼ばれることもあるオセダックスの一族の新しいメンバーであるように思われるので、そのうち名前が付けられることでしょう。メキシコ湾でオセダックス属が見つかったのは、これが初めてのことです。
3匹目のワニは行方不明となってしまいました。落下から8日後の初期観察でロープの輪の中が空になっていたのがわかったのです。20kgの重り、シャックル、紐の切れ端(すべて、ワニを沈ませておくために使われた装備)が近くで見つかりました。獲物を発見した幸運を他の生きものと分かち合いたいとは思わない何者かがワニを奪い去って行ったのは明らかです。
ワニの死骸と装備類(約36kg)を合わせた重さのものを引きずることができ、ロープを噛み切る顎の力のある生物が何かと推理すると、大型のサメが疑わしく、中でもニシオンデンザメか、カグラザメの可能性が高いと研究者たちは考えています。
落下の実験でわかったのは、海淵の居住者たちには選り好みをする自由がないほど、深海では食料源が乏しいということです。
reference:iflsceince