科学者は、初めて最年長ドナーの114歳の女性の幹細胞の再プログラミングを行いました。
彼女の血液サンプルから取った細胞を人工多能性幹細胞(iPSCs)へと変換させたあと、骨や軟骨、脂肪などの組織を維持、修復するのを助ける間葉系幹細胞を生成しました。
「私たちは、これほどの高齢の細胞でも再プログラミングできるのか?という大きな疑問の答えを導き出すことに着手しました。」とカリフォルニアにあるサンフォード・バーナム・プレビーズ・メディカル・ディスカバリー研究所の幹細胞生物学者、エバン・スナイダー氏は話しています。
「そして、それは可能だという答えが出ました。私たちは老化を遅らせる遺伝子やほかの要因を見つけるための貴重なツールを持っているのです。」
幹細胞は病気やガン、老化や再生などの研究を可能にしてくれるため『セルラーロゼッタストーン』と呼ばれることもあります。
中でも胚性幹細胞(ESCs)は最も研究価値のあるものですが、それを採取することは倫理問題につながり、そのような細胞は獲得するのが難しいのです。ありがたいことに、体細胞や成体幹細胞は人間であれば誰でも持っていますし、これらを胚性幹細胞に近い効果を持つ人工多能性幹細胞へと再プログラミングする技術をもっているのです。
しかし、今まで成人の細胞をリプログラミングできるのは何歳までなのかはわかっていませんでした。以前の研究では高齢の幹細胞は再プログラミングできないと言われていましたが、近年100歳以上の人、つまりセンテナリアンから人工多能性幹細胞が生成できたのです。
では非常に優れた遺伝子を持つ人ではどうでしょうか?110歳を超えるスーパーセンテナリアンならどうでしょうか?
世界中には現在たった28人の方が110歳を超えていると認定されています。このような方たちの研究が難しいのはサンプル数が少ないという理由だけではなく、時に出生記録がいい加減なことも理由のひとつです。
それにも関わらず、これまでのところ研究者たちはスーパーセンテナリアンの老化が遅いだけではなく、アルツハイマーやパーキンソン病のような生活習慣とは関係なく起こる加齢に伴う慢性疾患への奇妙な免疫を持っていることを発見してきました。
「なぜスーパーセンテナリアンの加齢はそんなに遅いのでしょうか?」とスナイダー氏は話しています。「今まで誰も出せなかったその疑問への答えに着手しているのです。」
そのために、研究チームはスーパーセンテナリアン、43歳の健常者、加齢が早い症状のある8歳の子供の3人のドナーから取ったリンパ芽球をリプログラミングしました。
スーパーセンテナリアンの細胞が他の人の細胞と同様に人工多能性幹細胞に変換するだけではなく、私たちの染色体の末端にあり加齢とともに縮小する一連の『保護』DNAであるテロメアまでも『若いレベル』へとリセットされたのです。
テロメアのリセットが高齢の細胞で3回に1回ほどと頻繁に起こりませんでした。それにも関わらず、ここで達成できたことは細胞時計を114歳から0歳に巻き戻したに等しいと著者は話しています。
「これらのデータは、超高齢という年齢はテロメア長さを修復するという再プログラミングの障害にはならないことを示しています」と論文に書かれています。
さらに、この技術に必要なのはたった4つのリプログラミング要素だけなのです。管理しやすい数であることで、スーパーセンテナリアンの幹細胞の長期的な比較研究ができるのです。
彼らは、超高齢者や若いドナーの細胞の再プログラミングは実現可能と主張していて、遡及したサンプルで実行することでスーパーセンテナリアンのドナーの少ないサンプル数を拡大できるかもしれません。
この論文著者は、この研究がどのように、そしてなぜスーパーセンテナリアンがそれほど長生きでき、変性疾患に対する並外れた抵抗力を持つのかを調査する助けになれたらと考えています。このような素晴らしい人たちから学べることはたくさんあるのです。
この論文はBiochemical and Biophysical Research Communicationsに掲載されています。
reference:sciencealert