衝突するふたつの渦巻き銀河からジェット(ガス流)が噴き出ていることの証拠となる画像が国際的な研究チームによって史上初めて撮影されました。この画像は光速に近い速度で出る初期のジェット噴射をとらえたものであり、銀河合体が重大な局面に入るときにそれぞれの銀河の中心のブラックホールが活発化して光速に迫る速度で物質を噴射することが確認されました。
「これらは渦巻き銀河か円盤銀河なのですが、ふたつの銀河が衝突しつつあり、そのうちのひとつの中心に衝突によって発生した赤ちゃんジェットがあることを私たちは発見しました。史上初めてのことです」と当該論文の筆頭著者である、ドイツ電子シンクロトロン(DESY)研究所のヴァイデイヒー・パリヤ博士が述べています(クレムソン大学のプレスリリース)。
TXS 2116−077銀河からジェットが出ていることの明らかな証拠となるγ(ガンマ)線放射を研究チームは検出し、『アストロフィジカル・ジャーナル』誌でこの驚くべき観測結果を発表しました。銀河合体に伴う諸事象によって物質が中心に向かって運ばれ、それが超大質量ブラックホールを活発化するのに十分な量になり得ることが、この発見によってついに確認されたのです。その次の段階で起きるのがジェット噴射です。
天の川銀河を含む宇宙のほぼすべての銀河の中心に超大質量ブラックホールがあります。とは言っても、ジェットを生成する活発化した超大質量ブラックホールを持つ銀河はそれほど一般的なものではありません。ブラックホールは何もかも吸い込んでしまう宇宙規模の排水栓の穴ではありません。物質が一定の距離内に近づいたときのみ、その物質を引き込みますが、銀河合体の間は銀河のガスが中心にやや近づく機会が豊富にあるのです。
「銀河のガスを移動させて中心の近くへ運ぶというのは容易に起きることではありません」と論文の共著者である、クレムソン大学科学部のマルコ・アイエロ氏は説明しています。「ガスを中心へ近づけるためには銀河をちょっと振るものが必要になります。銀河の合体、あるいは、衝突が、ガスを移動させる最も簡単な方法です。十分な量のガスが中心へ移動すれば、超大質量ブラックホールが極限的に明るくなり、ジェットを発現させる可能性があります」
とは言え、この現象は簡単に見られるものではありません。今回の発見においては、ジェットがまっすぐに地球の方を向いており、加えて、ジェットがまだ発生して間もないために明るくなり過ぎていなかったという条件がそろっていました。ジェットのなかには太陽がその存続期間全体で発するエネルギーより多くのエネルギーを1秒で排出するようなものもあり、そのようなジェットは所属する銀河より明るくなりやすいのです。
「通常、ジェットは強い光を放ち、それは私たちが背後の銀河を見ることのできないほど明るくなります」と言うのは同大学の非常勤教授のステファノ・マルチェーシ氏です。「何かを見ようとしているときに誰かに懐中電灯の光を目に当てられるようなものです。そんなことをされたら懐中電灯の光しか見えなくなります。このジェットはそれほど強くないので、これを生み出した銀河を見ることができるのです」
銀河合体を理解することで、銀河がどのように進化し、変化するのかを解明することができるでしょう。また、この発見は天の川銀河の未来を知るための手掛かりとなります。なにしろ、今から数十億年後には私たちの銀河も同じようにアンドロメダ銀河と衝突するのですから。
reference:iflscience