人類の3分の1がロックダウンで孤立状態にある4月中のこと、アリス・グレイさんも家族も息子の誕生日バーベキューに客が来るとは思っていませんでした。ところが驚いたことに、「巨大な毛玉のような」来客があったのです。ただこの丸々とした羊は見知らぬ来訪者というわけでもありませんでした。
グレイ農場はタスマニア州ドゥナリーにありますが、実はこの羊は2013年に農場が山火事の被害を受けた時に逃げ出した中の1匹だったのです。7年経って戻ったプリクルズ(グレイ家の息子が付けた名前、意味は「とげとげ」)は孤立状態にあったため、とんでもないヘアスタイルをしていました。
山火事がタスマニア州200平方㎞の土地で燃え続けた際、グレイ農場は完全に焼け落ちてしまいました。悲劇の後始末の中でも大変だったのは47kmに及ぶフェンスの修復です。グレイさんがABCラジオ・ホバート局に語ったところでは、プリクルズはどうも新しいフェンスの外側に出てしまったようです。「この時農場の後方から出られなくなったらしく、新しいフェンスができて群れに戻れなくなってしまったのです。」
群れから離された「羊毛難民」のプリクルズは何年もの間広さ80万平方mの林をさまよい、そこを住みかとしていました。毛刈りをしないため、体毛はかなりの長さとなっています。ただ顔が毛で覆われないメリノ種だったため、体毛が顔にかかって視界を奪われることはなかったのです。
グレイ家のバーベキューに現われる前、プリクルズは鹿用の暗視カメラに姿を捕らえられていました。このため農場の後ろで家族が「巨大な白い毛玉」を見た時、グレイさんは「カメラで見た頭のおかしい羊じゃないの」と思ったそうです。続いてグレイさんの夫が野生の羊捕獲チェイスを始め、最後には大人5人がかりでトラックの荷台に押し込めました。グレイさんはCBCラジオにこう語っています。「プリクルズはちょっとした見もので、見事な姿をしていました。でも幸いなことに境遇の割にはとても健康で、あんなに極端な姿でも素早い動きでした。」
農場に戻ったプリクルズは「引退牧場」に落ち着いて快適に過ごしているようです。幸い5月1日には毛刈りが予定されており、遠からず群れにも戻れそうです。しかしグレイ家はプリクルズが7年も「ソーシャルディスタンス」をとり続けたことに啓発され、コロナウイルスで危機的な現状でも隔離できない人達を援助するため、国連難民高等弁務官事務所に向けたファンドを立ち上げることにしました。グレイ家は寄付を募るにあたり、プリクルズの羊毛が同じように逃げ出したメリノ種の世界記録41.1kgに匹敵するかどうか、人々に重さをあててもらっています。
もしプリクルズの話を聞いてほかの羊がどうなったのか気になるのなら、他にもテキサスの動物園から逃げ出して10年間見つからなかったフラミンゴや、研究施設から特殊部隊さながらの逃走をしてみせたヒヒの話もチェックしてみてください。
reference:iflscience