メキシコで発見された3つのアフリカ人の頭蓋骨から、1500年代に起こった文化や思想、病原体の移動とともに初期の大西洋奴隷貿易の恐ろしさが浮かび上がりました。
考古学者たちは遺伝子解析、アイソトープ技術、歴史的事実に基づいてこの3人のストーリーの全貌を知ることができました。マックス・プランク人類史科学研究所が指揮をとる研究チームはCurrent Biologyに研究結果を報告しました。
この骸骨は16世紀のサンノゼデロスナチュラレスロイヤル病院の近くにある合同墓穴から発掘されました。遺伝子解析によってこの3人は一般的に西アフリカや南アフリカに見られるY染色体アダム(人類共通の男系祖先)を持つ男性であることがわかりました。それは現在の一般的なアフリカ系アメリカ人のY染色体アダムでもあるのです。
この3人の骨は明らかにメキシコ出身ではないことがわかります。研究チームは骨の同位体組成に基づき何を食べたか、その食べ物がどこで育つのかを地質学と照らし合わせることで、この骸骨たちの出身(または長く過ごした場所)がどこなのかおおよその検討を付けることができます。この3体の骸骨は人生の初期はメキシコやアメリカ大陸以外で過ごしたことがわかりました。調査の値が示したのは乾燥した草原地帯、もしくは西アフリカの海岸沿いだったのです。
頭蓋骨は上の前歯を尖らせる加工を施されていました。これはアフリカ人奴隷の間で記録されている文化的風習で、現在アフリカに住むある集団が今でも行っているものです。
この奴隷たちは明らかに健康状態がよくありませんでした。一人の歯には現在の西アフリカ人に典型的なB型肝炎ウイルスを保有していた形跡が見られました。しかしアメリカ大陸で初めてB型肝炎感染がおきたのがいつなのかは定かではありませんが、研究者たちはアフリカ人の奴隷たちがB型肝炎の新しい遺伝子型を中央アメリカに持ち込んだと主張しています。
「メキシコでB型肝炎が確立したことを示すものはありませんが、これが大西洋奴隷貿易の結果B型肝炎が持ち込まれた最初の直接的な証拠なのです。」とマックス・プランク人類史科学研究所(MPI SHH)で研究指揮をとるデニス・クルネト氏は声明で説明しています。「この発見によって病原体の生物系統地理学の歴史への洞察を深めることができます。」
もうひとりは Treponema pallidum pertenueという細菌に感染していました。これはフランベジアという主に皮膚や骨、軟骨に影響を及ぼす痛みを伴う感染症です。特定の菌株が以前17世紀のヨーロッパ人移住者に確認されていました。
「この研究によってヨーロッパ人のアメリカ植民地化後の初期のフランベジア感染症例に光が当てられました」とMPI SHHのアディティア・クマール・ランカパリ氏は話しています。「将来アメリカへの病原菌の流入と伝染にフォーカスして研究したほうがいいでしょう。よりカバレッジの高い古代のトレポマーネゲノムによってこの病原体の人間への共進化と適応をさらに理解することができるようになるでしょう。」
もちろん、この研究は大西洋奴隷貿易を通して虐げられた何百万人もの人のうちのたった3人の研究ではあります。ほとんどの経験は現在では不明瞭ではありますが、この研究で示されたような考古遺伝学によって長く失われた物語を解明する手助けとなることが期待されます。
reference:iflscience