火星で長い夏休みを過ごす宇宙飛行士にとって帽子と日傘だけではきつい太陽光線から身を守るのは十分とは言えません。
ちょうど海水浴客がたっぷりと塗る日焼け止めのように、自然のメラニン色素を金属セレン添加することで生成したセレノメラニンという新たな生物工学によって作られた物質を含むクリームを使うことで宇宙飛行士の身を守りつつ月や火星を探査することができるようになります。
NASAによると、磁場で守られた地球の外では、人は様々な危険な放射線に晒されるそうです。放射線には太陽系外からの銀河宇宙線だけでなく、太陽から注ぐ有害な紫外線やX線、ガンマ線が含まれたています。
このような宇宙線によるDNA破損の蓄積によってガンを引き起こすことや、高線量を浴びることで放射線中毒死に至ることもあります。鉛や遮水といった今までの対策では宇宙ミッションのコストがかさむ傾向があります。
メラニンとは動物や植物、菌類、バクテリアなど多くの種類に自然発生する色素のことです。いくつかの種類のメラニンは人間の皮膚や髪の毛、目の色など広範囲に存在し私たちを紫外線から守っています。
「メラニンは至るところに存在し謎めいたものです。」とイリノイ州エバンストンにあるノースウェスタン大学の生化学者ネイサン・ジャネスキ氏は語り、「まだ完全には分かっていないのです」と話しています。
2014年に New Journal of Scienceに掲載された論文によれば、物のメラニンは主に真性メラニンと亜メラニンの2種類に分けられるそうです。真性メラニンは皮膚や髪の毛などの黒や茶色の色素を担い、亜メラニンは赤みや黄色みを担い赤毛の髪や唇の色に現れます。
真性メラニンは亜メラニンよりもX線を効率的に吸収し、ジャネスキ氏は仲間と共に雄鶏由来の真性メラニンの保護力を強化できるかどうか実験しました。
研究者は硫黄の代わりに元素周期表で硫黄のすぐ下にあり、生物のガン予防に重要な、役割を果たすセレンを使いました。そうすることで自然界には存在しなかったセレノメラニンを作り出したのです。
研究室での実験中、セレノメラニン処理された皮膚細胞はX線放射をはねのけることができました。セレノメラニンは細胞に吸収され、ジャネスキ氏が『マイクロパラソル』と呼ぶものが形成されます。細胞はセレノメラニンを吸収すると自然な茶色や日焼けした色になった、とジャネスキ氏は話しています。
追加の試験では、セレンを加え遺伝子を組み替えられたバクテリアはセレノメラニンを生成することができました。つまりこの物質は宇宙空間で作ることができるということです。この実験結果は7月8日発行の Journal of the American Chemical Societyに掲載されています。
「これはいいですね」とメリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンス・大学の微生物学者ハダメス・J.B.コルデロ氏は語っています。「この論文著者はメラニン類似物の設計に生物学が原動力となる例を示しました。」
軽量で地球から持ち出すことなく宇宙ミッション中に有機化学品から作り出せるというのはとても魅力的です、とジャネスキ氏は話しています。セレノメラニンは宇宙服の裏地など衣類に組み込むこともでき、マイクロパラソルが継続的に保護するような機能も持つこともできる、と付け加えています。
ジャネスキ氏と仲間らは、彼らが化学合成した物質はすでに自然界に存在するのではないかと考えています。ひょっとしたら高線量の環境に生息する菌類が持っているかもしれません。
reference:livescience