旅客機が高度を上げて宇宙を目指すとどうなるのか?

現在の人類の科学力では、宇宙に行くすべとしてロケットを使うしかないでしょう。 ロケットの打ち上げは非常に高価であり、1 発打ち上げるごとに数百億円もの費用が発生することは珍しくありません。

一方で、宇宙ではなく、空を飛ぶだけであれば、旅客機で事足ります。費用もロケットと比べると格段に安く、一人当たりであれば一般市民でも十分に手が届く範囲の価格で空の旅を楽しむことができます。

そんな中、ある人はこう考えるかもしれません。今ある旅客機で、そのまま宇宙まで行くことができれば、より安価に宇宙の旅を楽しめるようになるのではないかと。

旅客機で高度を上げ続けるとどうなるのでしょうか。無事に宇宙にたどり着くことはできるのでしょうか。

今回は旅客機で宇宙へ行こうとするとどうなるのかについてご紹介したいと思います。

まずは、宇宙に行く手段として一般的である、ロケットについてご紹介します。

前進する原理自体は、非常に単純。風船を膨らました後に手を離せば、風船の口から勢いよく空気があふれるため、風船は口と反対の方向に進みます。誰しもが目にしたことのある現象ですが、これと同じことがロケットでも起きています。

ただし、要求されるエネルギーが桁違いであるため、風船のように空気だけを噴出するわけではありません。

一般的には液体酸素と液体水素の組み合わせのような、触れると激しく反応するような物質をロケットの底で燃焼させて高温のガスを噴出することで、莫大な 推進力を獲得しています。

そして、第一宇宙速度と呼ばれる時速7.9kmのスピードをだすことで宇宙に到達することができるのです。

しかし、ここまでしても宇宙に到達するのは困難。以前も紹介した通り、宇宙まで行くた めにロケットを設計すると、その重量のおよそ 90%を燃料が占めることになります。

もはや燃料を運んでいるのか、人間や物資を運んでいるのがわからなくなるほど、地球の重力は強大な存在なのです。

それでは、旅客機はどうでしょうか。私たちが普段目にする旅客機は、ジェットエンジンによって前進し、その前進した結果として翼から揚力、すなわち上向きの力を得るため空を飛ぶことが可能となっています。

一般的には、ジェットエンジンは周囲の空気に含まれる酸素を取り込み、燃料を燃やすことで推進力を得るものとされています。

また、前進する翼により前方にある空気が二手に分かれ、翼の形状の関係で上を通る空気の流れは速く、下を通る空気の流れは遅くなります。速い空気は遅い空気と比べて圧力が下がる性質があるため、下から上に向かって力が発生するのです。

さて、旅客機が前進するにも、すぐに墜落することを防くにも、どちらも空気が必要だということに気がつくことでしょう。

旅客機が空を飛ぶためには、空気は必須なのです。そのため、通常の旅客機が空気のない宇宙に到達することは不可能で、それよりはるか前に高度を上げることができなくなってしまいます。

以前のバイエンスでも紹介した通り、一般的な旅客機がおよそ高度1万 mを飛行する理由は、空気抵抗を少なくしつつ、エンジンが十分な推進力を得るための酸素が少なすぎない丁度良い高さであるためです。

逆に言うと、高度1万mより大幅に高度を上げようとすると、危険が伴うのです。

また、高度1万 m というとかなり高い高度に感じるかもしれませんが、宇宙の始まりは高度100km、メートルに直すと高度10万mからという定義が一般的です。つまりは、旅客機が飛行している空間は、宇宙までの道のりの10分の1程度なのです。

とはいえ、旅客機が実際に宇宙を目指すと具体的に何が起こるのか気になりますよね。も し、高度1万mを航行中の旅客機が、宇宙を目指して無理矢理にでも高度を上げ続けると何が起こるのでしょうか。

高度1万m以上では、さらに空気が薄くなります。高度を上げようとエンジンを吹かしても、やがて空気が少ないため燃焼することができず、揚力も得られないため高度が下がってしまうと考えられます。

それどころか、飛行機が制御不能になる恐れもあります。飛行機の翼が得ることのできる揚力は、前進する速度に依存しますが、翼の角度が一定の場合ある速度を下回ると、突然揚力が得られなくなります。

失速と呼ばれるこの現象は、飛行機にとって非常に危険な状態。では、逆に際限なく速度を上げてみると、どうなるのでしょうか。

飛行機の速度が上昇していき、やがては音速に到達します。音とは、空気の圧力が高い箇所と低い箇所が周囲に伝わるものですが、音速を超える物体があると、その前にある空気が伝搬できず、ある程度溜まった後に一気に放出されます。

発生する衝撃波は飛行機を大きな力で後ろに引っ張るため、飛行機の航行にとって大きな障害となります。

また、音速に到達することで空気の流れ方が変化するため、最悪飛行機が制御不能になる可能性もあります。

さて、安全に飛行ができる速度は、失速する速度と音速により決まりますが、一般的には音速は高度が上がるにつれ遅くなります。これは高度が高い方が、気温が低いことが多いためです。

そのため、安全に飛行ができる速度の範囲は、高度が高くなるほど狭まっていくのです。

横軸を速度、縦軸を高度のグラフを作成すると、失速する速度と音速の間に挟まれた領域が高度を上げることで狭くなっていき、角を形成するようなその形状から、棺桶の角、英語でコッフィンコーナーとも呼ばれます。

すなわち、高度を上げ続けると安全に飛行できる方法がなくなり、最悪の場合では制御不能になり、墜落してしまう危険性もあるのです。いくら宇宙に行きたいといっても、普通の旅客機で挑戦することはやめておいた方がよさそうです。

それでは、いつか宇宙旅行に行きたいと思う私たちは、どうすればよいのでしょうか。

現在、さまざまな民間の宇宙開発会社が活動を続けており、近い将来、宇宙飛行士として特別な訓練を受ける必要なしに宇宙へ行くことができる日が来るかもしれません。まだ構想段階や開発段階のものですが、進捗中のプランがいくつか存在します。

一つ目は、宇宙エレベーターです。35000km以上という、途方もない長さのケーブルを地上から空に向かって伸ばし、エレベーターの要領で宇宙に到達するというものです。

残念ながら宇宙エレベーターに使用可能な強度を持つ物質が、現状見つかっていないため、 構想段階に留まっていますが、将来的には宇宙に到達するためのコストを大幅に削減でき ると予想されるため、研究が続けられています。

もう一つは、旅客機を発射台として使うというコンセプトです。

これはヴァージンギャラクティック社が構想しているもので、通常のジェットエンジンを搭載した旅客機を使用し、ロケットエンジンを搭載した宇宙船を空中で打ち上げるというものです。

すでに高度が高く、空気が薄い場所から発射するため、空気抵抗が少なく、少ないエネルギーで宇宙に到達することが可能とのことです。現在では不可能ですが、いつか旅客機で宇宙に行ける日がくるかもしれませんね。

あと、もうひとつバイエンススーツがあれば安全簡単に、宇宙どころか他の天体にも訪れることが可能です。



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