太陽からおよそ7.8億km離れたところで静かに公転する木星。
多くの謎に包まれており、不気味な印象を持っている方も多いのではないでしょうか。木星の質量は地球の318倍、太陽系の惑星の中でもずば抜けて大きな存在です
ではもし、木星が地球に衝突すると何が起こるのでしょうか?地球は無事でいられるのでしょうか?木星VS地球どちらが勝つのでしょうか?
今回は木星が地球に衝突するとどうなるのかについて紹介したいと思います。
木星の重力は非常に大きく、表面の重力は地球のおよそ2.53倍です。過去には多くの隕石や彗星をその重力に捉えてきました。地球に衝突する際もこの重力は大きな影響を与えることでしょう。
また、木星は約10時間で1周という非常に速い速度で自転する天体です。その結果、地球と比べて2万倍もの強い磁場を持っています。
この磁場がある領域は磁気圏と呼ばれていおり、木星の磁気圏は木星半径の60~100倍程度です。さらに、木星から約210万km以内には強力な磁場がある領域があります。これが内部磁気圏です。
この領域では木星の周りに存在するプラズマが自転に強く支配されています。内部磁気圏の内側、木星から約30万km付近では高エネルギーに加速された電子、すなわち放射線が存在します。
この領域は放射線帯と呼ばれています。内部磁気圏にも放射線は存在しますが、その中でも、木星に近く放射線が最も多い領域が放射線帯なのです。
内部磁気圏の内側では非常に強い放射線が存在しているので、人間が生身で入れば耐えることはできません。
また、木星は土星と同様、質量が大きい惑星であり、他の天体に軌道を乱されることはほぼありません。
そのため、木星軌道を変えて地球に衝突させるにはかなりのエネルギーが必要になるでしょう。が、ブラックホールを発生させるためのエネルギーと比べれば微々たるものでしょう。
それでは木星の軌道を変えてしまいましょう。もちろん、地球に衝突する方向で。いったい何が起きるのでしょうか?
土星の時と同様、初めは特に影響はないと考えられます。木星の軌道は地球から最も近いところでおよそ5億9000万kmです。この距離での木星の重力が地球に及ぼす影響は月の重力の影響の0.001%以下です。
目に見えて影響が出始めるのはもう少しあとになるでしょう。待ち遠しいですね。木星が地球に衝突する軌道を通っていることが分かったとしても、今の人類に木星の軌道を変える技術はありません。
また、現在の人類は地球以外では短期間しか生きられないため、地球から脱出することも不可能です。人間はなすすべもなく夜空で次第に大きくなっていく木星を見つめることしかできないことでしょう。
最初に直接的な影響が出始めるのは地球からの距離がおよそ1500万kmを下回ってからです。地球上の潮の満ち引きに影響を与えているのは月と太陽の重力だけですが、この頃になると木星も潮の満ち引きに影響を及ぼし始めます。土星の時と似てますね…。
地球のような大きな惑星では、場所によって他の天体からかかる重力が変わります。木星近くの地表には重力が大きく働き、反対側は弱く働きます。この重力の差によって、天体を変形させるように働く力を潮汐力と言います。
潮汐力は2つの惑星の距離の3乗に反比例するため、地球からの距離が1500万kmを下回ってから急激に大きくなっていきます。
地球からの距離が100万kmまで近づくと木星の重力による潮汐力は月の重力による潮汐力のおよそ1500倍にもなります。木星が接近してくるにつれてあっという間に海が大荒れになり、津波がすべてを飲み込むでしょう。
影響を受けるのは海だけではありません。地球自身も潮汐力によって変形します。実際、月の重力による潮汐力で地表は30cm程度の上下運動を繰り返しており、潮汐力によって地震が発生しやすくなるという研究も多く存在します。
海が大荒れになったあとは、地震が多発し、さらに木星が近づけば地球は大きく変形します。この変形により火山は一斉に噴火し、多くの断層が出来上がります。
こうなってしまっては生命が生きられる環境は地球にはほとんど残っていないでしょう。この段階で人類を含めたほとんどの生命が絶滅してしまっていると考えられます。
天変地異が起き始める少し前、重力以外の新たな驚異が地球に襲いかかります。そうです。初めに紹介した木星の放射線です。地球と木星の距離が210万kmの段階で地球は木星の内部磁気圏に入ります。
木星の内部磁気圏にも放射線帯ほどではないにしろ、高エネルギーの電子が存在します。この放射線が地球に降り注いでくることでしょう。
しかし、安心してください。地球には我々を宇宙から飛来する放射線から守ってくれるバリアが2つあります。1つは地球の放射線帯、もう1つは大気です。放射線帯は木星と同様、地球にも存在します。
この領域でほとんどの放射線が地球の磁場に捕まって地上に到達できません。放射線帯を超えることができたとしても次は大気にさえぎられます。
太陽放射線が大気に降り注いでいるときにオゾン層が減少するという研究も存在していますが、今のところ観測例が少ないため、どの程度影響を与えるかは未知の領域です。
木星から大量の放射線が降り注ぐことによって地球上の生命に影響を与える可能性は排除できないでしょう。
天変地異の影響か放射線の影響か、地球上の生命はほとんどが絶滅してしまっていますがね。地球と木星の距離が約11万kmになると地球は潮汐力に耐えられず破壊されます。これが地球最後の瞬間です。
この距離をロッシュ限界といいます。ロッシュ限界の内部では小天体は潮汐力によって引き裂かれるため存在することができません。
1994年にシューメーカー・レビー第9彗星が木星に衝突しました。この彗星は1992年7月の木星への接近の際、ロッシュ限界を突破し、20個以上の破片に分裂しました。2年後の1994年7月に木星に衝突しています。
このときの衝突で発生したすべてのエネルギーを合計すると13垓ジュールにもなったと言われており、これはTNT300ギガトンが爆発したときに生み出すエネルギーに相当します。
地球も同様の運命をたどると考えられます。シューメーカー・レビー第9彗星と地球との大きな違いはその大きさ。
シューメーカー・レビー第9彗星の破片は最大でも1km程度の大きさしかありませんでしたが、地球は何千個もの破片になって木星のリングの一部になるか、木星に衝突すると考えられます。
破片が衝突した場合、木星表面付近の大気層で燃え尽きるものもあるでしょう。また、大きなものは木星の下層部まで到達して、大きな衝突痕を残すことで木星に一矢報いることはできるかもしれません。
この衝突により木星下層部の大気が上層部まで巻き上げられます。木星に関する新たな事実が発見されるきっかけになるかもしれませんが、観測できる人類はすでに絶滅してしまっているでしょう。
残されたのはキョトンとした表情の木星と粉々にされた地球です。またもや地球は破壊されたようです。みっともない…。