「PJ34」という分子を注入するだけで大半のがん細胞が自己破壊することが判明

マウスの体内に入れられたヒトのすい臓がん細胞がPJ34という小さな分子の作用により自己破壊させられたことを示す新たな研究結果がイスラエルの研究チームによって発表されました。

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生物医学誌『Oncotarget』に掲載されたこの研究論文によると、成長した腫瘍の中のがん細胞がPJ34の投与により30日間で90%も減ったということです。

テル・アヴィヴ大学サックラー医学部のマルカ・コウエン゠アーマン教授の研究チームがシバ医療センターがん研究所のタリア・ゴーラン博士の率いる研究チームと共同してこの研究を進め、免疫を抑制させたマウスにヒトの膵臓がん細胞(異種移植片)を移植しました。

Professor Malka Cohen-Armon, left, of TAU’s Sackler Faculty of Medicine, and Dr. Talia Golan, right, of the Sheba Medical Center. Courtesy

「2017年に発表した研究では、普通の細胞に影響を与えることなく、ヒトのがん細胞が複製(有糸分裂)される過程で自己破壊するのを促すメカニズムを発見しました」とコウエン゠アーマン教授は大学が最近発表した声明の中で説明しています。

「私たちは発見から得た知識を活用して異種移植片のヒト由来の膵臓がん細胞を効率的に消失させました。小さな分子が様々なヒトのがん細胞の自己破壊メカニズムを発動させるのです。この分子を用いることで今回の実験結果を得ることができました」

「マウスにはPJ34という分子を注入しました。この分子は細胞膜を透過しますが、ヒト由来のがん細胞に限定して作用します。ヒトのがん細胞が複製される過程でPJ34ががん細胞に異常を引き起こし、その結果、がん細胞は急激に死滅します。それゆえに、処置されたがん細胞の場合、増殖すること自体が細胞を死に至らせると言えるのです」と同教授は記しています。

実験では、24匹のマウスを8匹ずつの3グループに分けました。すなわち、異なる間隔でPJ34を投与する2つの実験群と処置を施さない対照群1つです。実験群の1つには3週間にわたって週に5日連続してこの分子を注入し、もう1つのグループには3週間の期間に週に3回、一日おきに処置をしました。

実験結果は、週に5回連続してPJ34を投与されたグループのみの腫瘍が約40%小さくなるという有意な減少を示しましたが、PJ34を注入されたいずれのグループも処置を終了した1ヶ月後にがん細胞が80~90%も減っていたというものでした。

さらにあるマウスにおいては、実験開始から56日めに腫瘍が完全に消失しました。

コウエン゠アーマン教授は、普通の細胞は影響を受けず、異常行動も見られなかったと指摘しています。

「研究の最後に至るまで、異常、毒性作用、個体の死亡は認められなかった。それどころか、対照群とPJ34を投与した実験群とで差異なく、実験期間中にすべてのマウスの体重が増加した」と論文にはあります。

研究グループは「ヒト由来の膵臓がん異種移植片の悪性細胞を効率的に根絶させるメカニズムは膵臓がん治療の新たなモデルを提示する」と述べています。

膵臓がんは初期には往々にして症状が現れないため、早期発見が難しい疾患として知られています。また、現在利用できる治療法では効果が出ないことが多く、より進行した段階(転移期)では5年生存率が3%です。

コウエン゠アーモン教授によると、今回の研究と並行して行った実験で検証したところ、PJ34を活用するメカニズムは他の種類のがんに対しても効率的に作用し、現行の治療法では効果が出にくい種類のがんを含む様々な難治性のがん(乳がん、肺がん、脳腫瘍、卵巣がん)の細胞を消失させたということです。

アメリカ食品医薬品局(FDA)の規制に従って、より大きな動物や最終的にはヒトで臨床試験をする前にPJ34の前臨床試験を現在行っているとテル・アヴィヴ大学は声明の中で述べています。

ゴーラン博士はシバ医療センター膵臓がんオラパリブ進行中(POLO)臨床試験部の研究主任であり、進行した膵臓がんの患者のみならずBRCA1またはBRCA2の生殖細胞変異のある患者にも専門に治療にあたる医師でもあります。

reference: nocamels