物質の『第5の状態』が宇宙空間で調査可能に

2018年7月、驚きの成果をNASAが発表しました。地球を軌道する国際宇宙ステーションに最も寒い場所を作り出したのです。

Credit:NASA/NIST

ルビジウムという柔らかい金属の原子を取り出し、絶対零度よりわずかに高い100ナノケルビン(1ケルビンの1,000分の1)にまで冷却しました。

その結果、『第5』の物質の状態であるボース=アインシュタイン凝縮と呼ばれる非常に冷たい雲が発生し、この冷却原子気体の奇妙な量子性質を理解する一助となりました。しかし研究はここで終わりはしませんでした。

科学者たちはジェット推進研究所の冷却原子気体研究室を使い 、絶対零度に限りなく近いナノケルビン以下のボース=アインシュタイン凝縮の生成を続け、地球上で出来る以上のことを学ぶために宇宙ステーションの無重力を利用したのです。

ボース=アインシュタイン凝縮はとても奇妙で、絶対零度に限りなく近く冷却されたボース粒子から作られます(ただし絶対零度に達すると原子は動きが止まります)。すると最低エネルギー状態になり、非常にゆったりと移動して重なり合うほどに近づき、『超原子』もしくは物質波のような働きをする高密度な原子の雲が発生します。

各粒子を波として説明がつく量子力学は原子スケールで観測することが容易にできるので、ボース=アインシュタイン凝縮のおかげで原子単体を研究するかわりに、より大きなスケールで量子の活動を研究することができるようになります。

レーザー冷却や磁場、蒸発冷却を使えば地球上でもボース=アインシュタイン凝縮を生成できます。蒸発冷却とは原子を磁気トラップに留め、高周波照射によってエネルギー粒子を『蒸発』させて冷たくて動きが鈍いものを残して濃縮物を形成する最終ステップとなります。

濃縮物がされるとトラップのスイッチを切り、ここでようやく研究者たちは実験を開始できます。しかし大急ぎで実験をする必要があります。というのも、原子間の自然の反発力によって雲は広がりたったの数十ミリ秒で消散してしまうからです。

自由落下を利用して重力を相殺することで1秒以上ボース=アインシュタイン凝縮を保持できます。

さらに、重力の影響を減らすことでより浅い皿に凝縮物を形成することができます。それができれば研究者たちは発生前と発生後の雲の観察がより詳細にできるようになります。

研究者たちはこのようにして冷却原子気体研究室で実験を実現させました。そして発生させた凝縮物を観測する際に地球の重力では起こり得ない効果を発見したのです。

「高周波誘導蒸発冷却は無重力状態では結果が全く違うことを発見しました。」と論文に記しています

「軌道上では原子の数が3倍近く増えていることを観測しました。様々な磁場勾配を適用したことで原子のおよそ半分は磁気が弱い状態であり、磁場トラップの周りにハローのような雲が形成されたのを確認しました。」

地球上では重力が支配して原子に作用しトラップ周辺から濃縮物が取り除かれてしまいます。

宇宙では凝縮物をより詳細に見ることができるので雲の端の周辺に浮かぶルビジウム原子のハローを確認することができたのです。この冷却方法のおかげで磁場トラップに注意を払うことはほとんどありませんでした。

少なくとも地球上では重力が凝縮物を脇に追いやってしまいます。しかし自由落下中には凝縮物が留まって、将来の研究資材である冷却原子気体を発生させます。

より冷たくより長持ちするボース=アインシュタイン凝縮を実現する可能性があるということは、つまりほかの研究方法も考えられるということです。たとえば、地球上では不可能なトラップの形を形成してさまざまな量子の動きを観察することができるでしょう。

ボース=アインシュタイン凝縮の波の性質は基礎物理定数を測定する原子干渉計に利用する可能性を秘めています。

「地球低軌道のCALのベースラインを使うことで冷却原子気体実験を無重力状態で行う利点を実証し、時間とともに機器を追加で採用していくことによって科学的な運用を実現する可能性を広げたのです。」と研究者たちは論文にしたためています

「CAL機器の将来的なモジュラーのアップグレードは、JPLが構築した原子波干渉計を搭載した科学モジュールを含む拡張ミッション研究に利用可能です。それに加えて、次の開発段階にあるミッションのペイロードが計画中であり、軌道に冷却原子気体発生と適応を続けることをお約束します。」

この論文は Natureに掲載されたものです。

reference:sciencealert



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