2019年は終わりましたが、量子コンピュータを完全に実現するための探究は続いています。2つのコンピュータチップ間の量子テレポーテーションが初めて実証されたことが昨年末に発表されました。
この成功の意味するところは、簡単に言うと、2つのコンピュータチップの間で、物理的な電子接続によるのではなく、量子もつれを通して情報が伝わったということです。これは、量子物理学の原理を用いて、隙間を超え、2つの粒子をリンクさせることによって実現しました。
量子もつれ(アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んだことがよく知られている現象と同じもの)に関しては、まだ、全てが理解されているわけではなりませんが、今のところ、厳密に制御された実験室という環境に限定された実験結果ではあるものの、コンピュータ・チップ間で情報を送るために量子もつれを使うことができたのは意義深いことです。
「実験室で2つのチップ間に質の高いもつれのつながりが発生することを実証できました。この実験では両方のチップの光子が同じ単一量子状態を示していたのです」と英ブリストル大学の量子物理学者ダン・ルーウェリン氏は説明しています。
「そうして、それぞれのチップはもつれを活用する様々な実演を行うように完全にプログラムされました」
仮説上は、量子もつれはどのような距離においても作用することができます。2つの粒子は密接につながり合っているので、たとえ、どこにあろうと(この実験の場合は別々のチップ上)、一方を見ればもう一方について、何かしらがわかるということを意味しています。
このような実験結果を得るために研究チームが行ったのは、もつれた光子のペアを発生させ、確実に妨害を低く抑えて高い正確性を保つように量子情報をコード化することです。最大4量子ビット(古典コンピュータのビットに相当する量子コンピュータの情報の基本単位)のもつれができました。
「最も重要な実演は2つのチップ間のテレポーテーションでした。粒子の個別の量子状態は、量子測定が行われた後、2つのチップの間の隔たりを超えて伝わりました」とルーウェリン氏。
「この測定は量子物理学の不可解なふるまいを活用します。もつれのつながりを崩壊させるのと同時に受信側のチップ上に既にある別の粒子に量子状態を転送します」
こうして、ほぼすべての情報が正確に伝えられ、記録されたことに見られるように複製忠実度が91%に達する実験を行うことができました。
量子もつれの作用の仕方についての理解は進んでいるものの、現時点では制御することは困難です。ノートパソコンにインストールするようなわけにはいきません。機能させるためには高価な大型の科学機器が必要となります。
しかし、今回の結果のような実験室での前進が、いつの日にか、誰にとっても役立つことのできるコンピュータに発展する最初の一歩になるかもしれないという希望が持てます。たとえば、非常に強力な処理能力やハッキングに対する防御装置を内蔵する、次のレベルのインターネットといったものです。
この研究では、研究者たちが高いレベルで実験を制御することができた上に、データ喪失が少なく、テレポーテーションの安定性が高かったことは追跡調査が前途有望である兆しと言えるでしょう。
また、現代のコンピュータに使われているシリコンチップ(Siチップ)の技術やチップを製作するために使われる相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の技術を発展させるために量子物理学を使う取り組みに弾みをつける研究にもなります。
「将来は、量子光通信の装置と古典的な電子制御装置をひとつのシリコンチップに統合することが、完全にマイクロチップを基盤としてCMOSと互換性のある量子通信と情報処理ネットワークへの扉を開くと思われます」と中国北京大学の量子物理学者であるジアンウェイ・ワング氏は述べています。
reference: sciencealert