およそ1億年前、アルゼンチンの地を進化初期のヘビがうろついていた時代がありました。ナジャシュ・リオネグリナという名で呼ばれるこのヘビは現代のヘビのようにくねくねと這うのではなく、小さいが完璧に形成された2本の後ろ脚で地面を踏みしめていたと考えられています。このたび発表された、ナジャシュの立体的な骨格を分析した調査結果は、ヘビの進化を理解する上で謎となっていた部分を埋めるヒントになると期待されています。
ヘビは、脊椎動物種がどのように多様に進化するかを示す最も適している例の一種です。長い時間をかけて、ヘビは頭部がキネシス(頭蓋骨の関節が下あごの開閉につれて自動的に動くしくみ)を得る一方で胴が長くなり四肢が次第に消滅するという進化を遂げました。今回発表された研究論文の著者アレッサーンドロ・パルシーによると、ヘビの進化過程を見れば生物の進化の基本的なしくみが明らかになるとともに「複雑な体がどのように進化するかを示す素晴らしい実例」であるということです。
「たとえば、環境によってどのように生物の系統が異なる形や生体構造や行動の進化をすることになるのか。生物はなぜ四肢が退化するのか。遺伝のメカニズムの裏にあるのは何なのか。そして、このように形質を変えさせる作用が生態系にはあるのか。そういった問いに答える例となっています」とパルシーは語ってくれました。
しかし、このような生物の適応に関する理解は、化石が十分になかったために、長い間、限られたものでしかありませんでした。
この進化の空白部分を埋めるため、アルゼンチンの研究者たちとカナダのアルバータ大学から成る国際的な研究チームが、保存されているナジャシュの頭蓋骨を高分解能CTでスキャンするとともに光学顕微鏡検査を行うことによって、この太古のヘビの身体構造、神経経路、そして血管を視覚化することに成功しました。
進化の最も初期の段階にあったヘビの1種について、立体的な化石を丸ごと使って研究者が精査するのは初めてのことです。この化石に含まれている頭蓋骨にはトカゲと現代のヘビの中間の特徴が見られ、パルシーは「ダーウィンの進化論を信じるのならば、それは予想されて当然のこと」と指摘しています。
「目立った身体構造上の特徴のひとつはナジャシュの頭蓋骨にあるL字形の頬骨です。多くのトカゲに「ジュガール骨」と呼ばれるL字形の頬骨があります。現代のヘビはI字形の骨が眼窩の後ろにありますが、ほとんどの研究者がこれはトカゲのジュガール骨に相当するものであるわけがないとずっと思っていました」パルシーは続けてこう言っています。「実際には、現代のヘビの眼窩の後ろにあるその骨は、おそらく、あごの開閉をしやすくするための進化の過程でL字形の下部の横棒が単になくなったジュガール骨だということがナジャシュの分析からわかったのです」
「現代のヘビの祖先は、従来考えられていたような穴を掘って住む小さな体つきの生き物とは異なり、体も口も大きかったという考えを私たちの発見は裏付けています」とマイモニド大学アザラ基金のフェルナンド・ガーベログリオは説明しています。「この調査はまた、完全に四肢が退化した大半の現代のヘビの祖先が出現する前、初期のヘビに後ろ脚があった期間がかなり長かったということも明らかにしています。」
ヘビの進化の歴史において最初の7000万年間のどこかの時点でジュガール骨が徐々に消えていったため、以前より大きな獲物を丸のみすることが可能になりました。これが、同じ爬虫類として近い種同士のヘビとトカゲの進化を分ける分岐点となったと考えられています。
「地球の生物の多くは、通常、比較的少ない量の餌を食べて生きていますが、それとは異なり、ヘビは餌を食べない期間が比較的長いものの、食べるときには大きな獲物を丸のみして消化する生き物です。獲物がヘビ自身とほとんど同じくらいの体重のこともあるのです。」そう話すパルシーが付け加えて言うには、餌が少ない環境にいる場合にたまにしか餌を食べなくても生きられることは、その生物にとって有利になり得るということです。
実際に、ヘビのこの特質は白亜紀の終わりごろに恐竜が絶えることになった大量絶滅期を彼らが生き残ることができた理由かもしれません。当然、大きな獲物を呑みこむためには頭蓋骨の関節がしなやかで、よく動くものでなくてはなりません。それにもかかわらず、トカゲがこのような能力を得る進化をしなかったことに研究者たちは困惑しています。
reference: IFLscience