カラスは人間の子供と同様にセルフコントロールができるかの認知テストを合格することで悪知恵があることを証明しました。目の前におやつを置き、さらに美味しそうなエサを手の届かない所に見せておくと、目の前のエサを食い荒らすことを防ぐことができました。
ニューカレドニアカラス(Corvus moneduloides)を対象に行われた研究は、初めてカラスと人間の子供両方に同時に行われたテストであると研究者は話しています。この実験はスタンフォードマシュマロ実験と呼ばれ、1960年代に幼児対象に行われた有名な実験を元にしています。
この実験では、幼児をマシュマロが置かれた部屋に案内し、もし15分間マシュマロを食べることを我慢できたらマシュマロのおかわりをあげることを伝えます。
我慢する能力は将来設計などといった認知能力を実証するもので、もともとは、人間の認知能力の発達過程を研究するための実験でした。具体的には、我慢することで近い将来に、さらに良い結果を生むことを理解し我慢できるのは何歳頃かを研究するための実験です。
この実験をそのままカラスに実施してもうまくいかないのは明らかです。我々の知る限り、カラスは人間の言葉を理解できなのですから。しかし、幸運なことにこの実験を動物用に応用することができます。
イギリス、ケンブリッジ大学心理学者のレイチェルミラー氏筆頭に行なわれた実験では、透明なケースに入った回転するトレーの一部だけがつつくことのできると言う装置が用いられました。
2つのエサをトレーに置き、1つはすぐに食べることができる。しかしもっと美味しそうなエサはトレーが回転して窓から出てくるのを待つことで食べることが出来るという仕組み。美味しそうなエサ、つまり質(例えばりんごの欠片に対して肉片といったもの)も量も上回るものを置くのです。
この実験では、子供に対しては食べられるご褒美は使われていません。子供たちにはシールのご褒美が使われました。通常のシールに対しより大きくキラキラしたシールをより良いご褒美として使用したのです。
捕まえた野生の9羽のカラスと3歳~5歳の61人の子供達に、この実験装置の仕組みを十分に教えてから2つの異なる状況下で実験が行われました。一方はご褒美が見えている状況、もう一方はご褒美が1つ、もしくは両方が隠された状況です。
ご褒美が見えている場合は、子供もカラスもより良いご褒美のために我慢することがよくできていました。1つ目と2つ目のご褒美が量質共に同じケースよりも、2つ目の方が量質ともにより良いケースの方が明らかに待とうとする姿勢が見られたのです。
これはカラスにおいても実証されました。空腹だからではなく、より良いエサを求めて我慢をしたのです。
しかし、ご褒美を隠しての実験の場合では人間の子供の方がカラスよりもより良いパフォーマンスを示しました。なぜこのような結果になるのかははっきりとしたことはわかっていませんが、おそらくカラスの野生の習性に関係しているだろうと研究者は話しています。
というのも、実験装置のトレーを設置した鳥小屋に人間がいるとカラスは寄ってこないのです。人間が去ったあとに寄ってきます。ですからどんなご褒美が隠されているのかをカラスは知らず、我慢して待つだけの価値があるかどうかの判断は推論に頼るしかないのです。
一方子供たちは警戒心もなく科学者がどんなシールを隠したかを観察し、隠されたものが何かを記憶しておくことができます。
「量や質が違うエサをすぐに食べるのか、より良いもののために我慢するのかを決定させることはワーキングメモリーや注意配分などへの精神的負担を負わせることになった可能性がある。」と研究論文に記されています。
しかしながら、この結果は2014年に研究された結果と一致しています。同じくマシュマロテストをもとにした研究です。ニューカレドニアカラスに対しおやつを与え、我慢できたらより良いおやつを与えるように訓練しました。このテストでも、やはり量質ともにより良いエサのために最初のエサを我慢する行動が見られたのです。
2014年に実施されたもうひとつのテストでもニューカレドニアカラスは人間の子供同様に因果関係を理解することができていました。水の入ったチューブにエサを浮かべる水置換テストを行った際、カラスはチューブにものを入れることで水位を上げてエサにありつくことができました。これは人間で言うと7歳の子供相当の知能であると研究者は語っています。
ですから、もしカラスが人間がエサを隠すのを観察し追跡することができれば人間の子供と同じような行動ができるでしょう。
「これらの実験結果は鳥と人間の自制心の理解、特にこういった実験においては実験の趣旨を理解しているかどうかが結果に影響を与える要因となるという見解を示すことになります」と研究者は論文にて述べています。
今後、異種間実験を企てる際にはこういった要因への考慮が必要です。故に、これらの発見は今後の自制心のメカニズムに関する研究への礎となることでしょう。
reference: sciencealert