2019年12月7日、ある芸術作品が約1300万円で取引され、そして食べられました。「自由貿易の象徴」とも呼ばれる、この食べられるアート作品は、一見すると「壁にガムテープで貼り付けられたバナナ」にしか見えません。
これは「コメディアン」と題された作品で、イタリアのアーティストであるマウリツィオ・カテラン氏の作品です。この作品は、マイアミにあるアート・バーゼル内の、ペロタン国際ギャラリーにて公開されていました。しかしその展示において、ニューヨークのパフォーマンスアーティストであるデビッド・ダトゥナ氏が、そのバナナを食べてしまったのです。彼は「僕はお腹が空いているんだ」と冗談交じりに発言しました。
この衝撃の出来事は、エマニュエル・ペロタンのある発言に、全く新しい解釈を与えることとなりました。その発言とは、「マウリツィオ・カテランの作品は、ただのモノではない。あれはモノが世界を巡り廻る様をあらわしているのだ」というものです。
この展示会でバナナが食べられてしまったことで、「コメディアン」の購入者が作品自体を失うわけではありません。そもそも、同じバナナをずっと置いておけるわけではないからです。
「コメディアン」の所有者が、腐る前にバナナを取り替えたとしても、それは「コメディアン」という作品であり続けます。そのため、ギャラリーディレクターであるルシアン・テラス氏は、マイアミ・ヘラルド紙において、「ダトゥナ氏は、作品を破壊したわけではありません。バナナというのは概念なのです」とコメントしています。
その後、ペロタン氏がバナナを買ってきて、壁に再び貼り付けると、バナナという概念が再び実体をあらわしました。
会場の警備や人込みの対応に当たっていた、マイアミ・ビーチのスティーブン・フェルドマン氏も、これには「おもしろいものが見れた」と満足した様子です。
「コメディアン」はかねてより、ペロタン氏によって、「自由貿易の象徴であり、少し下品な象徴でもあり、そしてなによりユーモアにおける古典的な装置だ」と評されています。
市場で買ったバナナをアートにしてしまうカテラン氏は、数々のユニークな作品を生み出していることで知られています。
「アメリカ」と題された、とても機能的な18金製のトイレは、最近イギリスの展示会で盗まれたことで話題にもなりました。また、「完全な日」と題された、イタリアの有名な画商であるマッシモ・デ・カルロ氏を、カルロ氏自身のギャラリーの壁に、テープではりつけにするという衝撃的な作品も有名です。
とはいえ、壁に貼り付けられたバナナに1000万円以上の価値がつけられる「芸術」というものは、常人には理解し難い世界ですね。
reference: the guardian