近縁のツツイカやタコと同様にコウイカは科学者が研究することのできる地球外知的存在に最も近い生物です。類人猿を研究することによってヒトの知性がどのように機能するのかが類推できる一方で、これらの驚くほど賢い無脊椎動物たちを観察してわかるのは、ヒトとは異なる方法でも様々なやり方で脳が非常に卓越した働きができるということです。それは、ヒトのたどったことのない道を知るようなものです。
捕食種にとって、奥行きを知覚する能力は餌を捕獲するためには必要不可欠なものです。極めて柔軟な腕を持つツツイカでも、獲物が腕の届く範囲に入って来なければ捕まえることができません。だからと言って、近づき過ぎれば獲物は驚いて逃げてしまいます。ですから、美味なる甲殻類に忍び寄るときには距離感を正確につかむことが必須となります。
ミネソタ大学のトレヴァ・ウォーディル博士は頭足動物(コウイカなどの触腕または触手のある軟体動物)が立体視をするのか知りたいと思いました。立体視はヒトが右目と左目が見る像を比べることによって距離を測るために使う手法です。
この問いの答えを探るためにウォーディル博士はコウイカたちに3Dメガネをかけさせ、(かなり困惑したに違いない)この被験者たちに画面を横切って歩く小エビの映像を見せました。
両目から送られる情報を組み合わせることによってのみ、小エビが認識できるようにするために小エビを点の模様で覆うとともに同じような点の模様を画面全体に配置することで小エビの姿をカモフラージュするという実験も行われました。距離感の把握がこの手法によって定まるように右目と左目に映る小エビの像を調整しました。すると、コウイカたちが捕食しようとする動作をしたことから、立体視をしていることが確認されたのです。
「片目でしか小エビを見ることができないときは、つまり、立体視ができないときは、コウイカたちは適切な距離で態勢を整えることができなくなりました。両目で小エビを見ることができたときは、すなわち、立体視を活用したということですが、触腕を伸ばして狩るときにより速く意思決定ができていました」とウォーディル博士は同大学のニュースリリースで説明しています。「餌を捕まえるにあたって、このことは大きく影響します」実験では、コウイカたちが成功したのは通常91%でしたが、片目の視覚が妨げられると成功率は56%に落ちました。
しかしながら、獲物が比較的遠くにいるときにはコウイカたちはカメレオンのように左右の目を別々に操作していました。これは、素早く攻撃するための態勢を整えているときにのみ、立体視を行うということを示しています。
コウイカはヒトより格段に巧妙にできることがいくつもあります。たとえば、明暗が反転した画像を片目にだけ見せられたときにヒトよりも距離を明確に測ることができます。このことから、コウイカの立体視はヒトとは異なる方法で機能していることがわかります。
「コウイカの目はヒトの目に似ていますが、脳は著しく異なります」とパロマ・ゴンサレス゠ベリード博士は説明を加えています。今回の研究結果は科学ジャーナル『サイエンス・アドヴァンシーズ』に掲載され、ゴンサレス゠ベリード博士はこの論文の共著者のひとりです。「コウイカには視覚の情報処理をするヒトの後頭葉に相当する脳の単一部位がないようなのです。右目と左目の見る像を比較して、その差異を算出する部位がコウイカの脳のどこかにあるはずだということを私たちの調査は示しています」
他の頭足動物とは異なり、コウイカは目を前方向に回転させることができるので、左右の目の視覚を最大75%重ねることが可能です。そもそも、この研究チームがコウイカは立体的視野を得ているのではないかと疑うことになったのはそのためです。コウイカの最も近縁の生きものたちは左右の目が違う方向を向いているので、おそらく、また別の手法を用いていることでしょう。
reference: iflscience