コーネル大学の研究チームが人間に似たロボットの製作に一歩近づきました。とは言っても、ここまで革新的であるとは誰も予想していなかったでしょう。ソフトロボットの人工筋肉が温度を一定に保つために「汗をかく」のです。
科学誌『Science』のロボット工学版『Science Robotics』に掲載された論文によると、この技術は加熱によって制限されることのない高性能ロボットを製作するために不可欠な手順になると同研究チームは考えています。ロボットが発汗することで加熱を防ぎ、長時間の作動が可能になります。金属製のロボットは熱伝導に優れているので速やかに熱を分散することができますが、合成樹脂ゴムなどで作られるソフトロボットではそういうわけにはいきません。この研究チームは、別の方式を考え出すためにブレーンストーミングをする必要がありました。
「発汗作用は人間の持つ最も顕著な特徴のひとつです」と論文の共筆頭著者のひとりであるフェイスブック・リアリティ・ラボ科学研究員のT. J. ウォーリン氏は述べています。「発汗は水分蒸発に伴う急速な熱の発散を利用するものであり、周囲の気温より体温を下げる作用があります。生物学の知見が私たちのような工学者にとって大変参考になることがよくあるのですが、この研究においても重要なヒントを得ました」
研究チームは指のような働きをする水圧駆動式の作動装置を3Dプリンターで作成しました。この装置は物をつかむ動作が可能です。素材としては2種類のヒドロゲル(ゼリーのように粘った個体であるゲルの内、液体成分が水であるもの)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)とポリアクリルアミド(PAAm)が用いられ、PNIPAAmでできた基盤の層を細かい穴の空いたPAAmの層で覆っています。この2種類のヒドロゲルは水分を保持し、温度に反応することから素材に選ばれました。
指の温度が30℃に達すると基盤の層が反応して収縮します。この収縮により水分が絞り出され、被覆層のミクロン単位の細かな穴から押し出されます。この水分の蒸発による放熱は効率が良く、指の表面温度をわずか30秒で21℃も下げることが可能です。人の発汗作用の3倍の効率です。この二層式の装置に扇風機の風を当てると、冷却速度は発汗の仕組みのない同様の装置の約6倍にもなります。また、ロボットハンドが握る物体も指からの水分蒸発によって冷却されることが確認されました。
「この人工発汗の仕掛けの最大長所は温度を調整する性能が素材自体にあることです」とウォーリン氏は研究の意義を説明しています。「発汗率を制御するためのセンサーなどの部品を必要としません。素材の反応温度をその場の気温が超えると被覆層の穴が自動的に開き、発汗して気温が下がると穴が自動的に閉じるというシンプルな仕組みです」
この実験結果には胸が躍りますが、まだ最初の一歩が踏み出されたばかりです。汗として出る水分でロボットハンドはすべりやすくなるので、握る能力を改善させるために研究チームは材質に関する調査を進めています。また、発汗する際にロボットとしての可動性が落ちることと水分補給が必要になることも課題となっています。
「将来、素材やロボットをより生物に近づけられるかどうかは素材をどう組み合わせるかにかかっていると思います」と別の共筆頭著者であるロブ・シェパード准教授(機械工学・航空宇宙工学)は語っています。「そう考えると、この領域の様々な専門分野を越えて研究することが重要だと改めて気づかされます。ひとつの分野の研究チームだけでは全部の問題を解決できませんから」
汗をかくことのできるソフトロボットの実現に(そして、将来は「飲む」ことのできるソフトロボットの実現にも)一歩近づいたようです。
reference:iflscience