「この鼻つららを見てください!」極寒の南極で最近撮られた動画の中でうれしそうに語るのはBBCの環境問題特派員です。「鼻つらら」、つまり呼気の水分が凍ってできたつららがレポーターの鼻から垂れ下がり、下唇にまで達しています。
ニュージャージー州ラトガーズ大学の地球学部で極地研究にあたるジュリアン・グロス准教授によれば、気温が氷点から大幅に下がると鼻水はすぐ「鼻つらら」になってしまうそうです。グロス准教授は2017年と2018年の南極隕石研究プロジェクト(ANSMET)とともに南極遠征に参加し、チームの季節調査ブログに「鼻つららの日」の記録を残しています。
「鼻つららが固まる前に風で吹き上げられてゴーグルに付着し、そのまま凍ったこともありました。」准教授はブログでこう記しています。「これは大変印象的でした。」
でも鼻つららはどうやってでき、そしてどんな感じがするのでしょうか?
寒い時期には50%〜90%の人に鼻水が出ますが、オーストラリア・クイーンズランド大学(UQ)の医学部によるとこれは寒さによって引き起こされた鼻の炎症によるものです。鼻孔は肺に届く前の空気を暖めるとともに加湿していて、空気が非常に低温で乾燥している時には加湿のため体液を増やそうとします。UQによればこのシステムが過剰に働いて息で吸収し切れない量の湿気が生じると、余った水分として流れ出ることになると言います。
南極のように強風を伴う低温が零下60度にも及ぶところでは鼻つららができることは避けられないと、グロス准教授は述べています。南極調査中の平均気温は氷点下20度から40度になるのが普通で、「体の一部は常に低温」となり、「まるで小さな歯が皮膚に食い込む」ように感じるのだそうです。
こうした極端な状況下では鼻から垂れた水分が直ちに凍り始める、と准教授は言います。たまった水が滴って鍾乳石やつららが作られるように、「滴り落ちる鼻水にも同じことが起きる」のだそうです。
「(仮に外側を覆ったとしても)鼻の温度が低すぎて感覚がなく、自分で見ることができないため時間とともに冷たいつららが伸びても気づかず、また鼻が麻痺してそれを感じることもないのです。」
でもチームで調査をしていれば同僚の鼻つららには気づきます。
「つららが細ければ風で流されて、鼻から変な形の氷がぶら下がることになります。長いつららであっても、隕石を取り出そうとして下を向けば上着とぶつかって取れてしまうし、痛くも何ともありません。」
「ただその際にはつららが隕石と接触しないようにすることです。有機物汚染の可能性ありと調査記録に書き留める羽目になりますから。」
鼻つららのもう1つの名所はカナダのマニトバ州です。この地域は2013年12月31日ウィニペグ市で零下38度を記録したことにより、「火星より低温」な地として世界的に有名となりました。 マニトバ州立博物館が比較のためツイッターで同じ日の火星表面温度を知らせており、それが零下29度だったのです。
ウィニペグの冬はいつも感覚を麻痺させるほど寒いわけではありませんが、毎年鼻つららが豊作となる程度には低温です。個人差や風の状況にもよりますが、鼻つららにはさまざまな形があるとクリストファー・ボービラン氏は言います。彼は「フロスティフェイス」プロジェクトの創始者として、ウィニペグ市民や来訪者の顔を飾る氷の姿かたちを世に広めている人物です。
ボービラン氏は語ります。「私の髭だと出来上がりが乱雑な『かぼちゃ』みたいになります。ハロウィーンに子供たちが削って作るやつ。よくあるのは『セイウチ』で、鼻の下に牙が2本生える形です。『ユニコーン』は上唇から突き出した角で、『お洒落』はまるで櫛を通したような形。これは顔を覆わず二輪車に乗る人に多いですね。」
「フロスティフェイス」の写真を見ると鼻だけが氷の塊を作り出すわけではなく、口髭やあご髭は氷でとがった形となり、眉毛とまつ毛も氷で覆われるのが分かります。
「誰もがみな違った様子で、氷自体個性を持っているかのようです。」ボービラン氏は言います。「私の場合どれほど屋外にいても『マニトバ・マスカラ』(まつ毛の氷のこと)ができることはないのですが、髭はりっぱな出来ばえになります。」
この種の氷は見た目ドラマチックではありますが、体毛の上で凍りつくため皮膚を傷めることはありません。氷が皮下組織で結晶となって深刻なダメージを与える凍傷とは異なり、顔の氷化粧は通常は無害なのです。
ボービラン氏は続けます。「顔が氷で覆われるケース全てについては判断できませんが、私の経験や写真を送ってくれた人の体験からすると、凍ったことで障害は起きません。 凍傷は重症ですが、それとは全く違うのです。」
reference:livescience