実験設備で作られた微小サイズの単純な人工器官、オルガノイドが新薬研究開発のスピードを大きく早めることになるかもしれません。ある科学者グループが微小な生体組織から成る「オンチップ人体」を作りだしたのです。
この器官は実験で作られた人体モデルとしては最も先進的なものとされ、新薬を人に適用する前に危険性や効力を調べるなど、図りしれない価値を生む可能性があります。
実物の生体のおよそ100万分の1に相当する小さなオルガノイドは、新薬開発で病気と闘う研究者にとって効果的な試験環境となります。実験環境下で人体部位の微小モデルを複製するという、長期にわたる研究の最新成果です。
オルガノイドを結合させた構造物は、有害性があって市場に出せない薬品の作用を正しく再現させる目的で既に使われています。この方法によれば動物実験やシャーレで培養された細胞による試験で見過ごされる問題も捕捉できるのです。
新たにスケールアップしたバージョンではモデル器官の種類がさらに増え、危険な副作用を検知しやすくなっています。
「微小な人体器官を作製して新薬試験に用いることは、人体と同じサイズの器官を使って得た成果の論理的な延長でした。」ウェイク・フォレスト再生医療研究所(WFIRM)の医学者であるトマス・シュープ氏はこう語っています。「細胞が存続可能な自然度の高い環境など、人体サイズのレベルで開発した類似技術の多くは、微小レベルに落とし込んでも同じく優れた結果を生んでいます。」
シュープ氏と同僚は「バイオファブリケーション技術ツールボックス」を使ってミニチュア器官を作りましたが、これはヒトの脳や心臓、肝臓、肺、精巣、血管、結腸の代わりとなるものです。
オルガノイドはまず人体組織の細胞と幹細胞の微小なサンプルからスタート、次いで28日以上の貯蔵寿命を持つ微小器官が作られます。これが本物の器官が持つ数多くの機能をコピーし、血管細胞や免疫細胞、結合組織の線維芽細胞などに変化するのです。
6個の微小器官が近くに集められ、単純化された人体の代用品となって、人の体の異なる部位が薬の投与に対してどう複合反応するか分かるようになっています。この知見には計り知れない価値があります。
「オリジナルの器官に存在する主要な細胞タイプが全て必要なことは、かなり初期の段階で分かっていました。」オハイオ州立大学の生物医学技師アレックス・スカーダル氏は言います。「有害物質に対する人体の異なる反応をモデル化するには、そうした反応を起こす細胞タイプを全て含む必要があったのです。」
科学者グループが作製したオルガノイドを使えば、以前2次元のサンプル組織で行なっていた試験が3次元の生体で実施できるようになります。これによって特定の薬が持たらす影響に関し、より包括的で現実的な知見を専門家に提供できるのです。
現状では臨床前試験の結果5,000に1つの薬品しか市場に出回らないと考えられますが、より効率的で安全な薬品開発プロセスへの見通しが広がります。超小型オルガノイドをベースとした実用的な人体シミュレーションが全面的に開発されれば、新薬をより早く安く入手でき、動物実験の必要性も少なく(あるいは皆無に)なるでしょう。
「人体器官組織系の最重要機能は新薬開発の初期段階で人体への有害性を判別する能力と、個人用特注薬への応用可能性です。」WFIRMの泌尿器科医であるアンソニー・アタラ氏は言います。「問題のある薬品を開発初期なり療法実施の段階で除外できれば、文字通り何十億ドルの費用と人命を救うことになるのです。」
reference:sciencealert