大気中の二酸化炭素量増加が極端な温暖化を引き起こし、生物種が多数絶滅した時代は地球の歴史上何度か存在しました。過去原因となったのは大規模な火山噴火や隕石衝突でしたが、今地球が迎えつつある絶滅の危機をもたらすのは人類の活動です。
筆者の専門は地学と古代気候学で、隕石衝突、火山活動、気候変動と生物種絶滅の関係を研究しています。そして現時点における二酸化炭素排出量の増加速度は、恐竜を含めて過去2回の生物絶滅をもたらした時代のそれよりも速いと考えられるのです。今世界の目は新型コロナウイルスに向けられていますが、人為的な地球温暖化が自然に与える脅威と、それに対する緊急措置の必要性は明らかです。
環境変化の速度が遅いか中程度であれば多くの生物種は適応可能ですが、地球の歴史を見ると極端な気候変動によって多数の生物種が絶滅し得ることが分かります。例えばおよそ6,600万年前隕石が地球に衝突した時には、岩石の飛散や火事の延焼によって大量の二酸化炭素が放出され、その後1万年もの間影響が続きました。地球の気温は急上昇し、海面も上昇して海水が酸化、恐竜を含む約80%の生物種が絶滅したのです。
5,500万年前にも10万年以上にわたって気温が上昇した時代がありました。暁新世-始新世温暖化として知られる現象ですが、原因ははっきり分かっていません。「メタンのげっぷ」と呼ばれる仮説によれば、大規模な火山の噴火がきっかけとなって海洋に堆積したメタンが急速に放出され、その結果海水の酸化と生物の絶滅を招いたとされています。今、地球の生命は同じ運命をたどるのでしょうか?
18世紀末に工業化時代が始まるまで、大気中の二酸化炭素量はほぼ300ppmで推移していました。つまり大気中の分子100万個のうち二酸化炭素分子は300個でした。今年2月、大気中の二酸化炭素量は414.1ppmに達しています。さらに二酸化炭素とメタン、亜酸化窒素を合わせた温室効果ガスの総量では二酸化炭素換算で500ppmにものぼります。
そして二酸化炭素は毎年2ないし3ppmのスピードで大気中に加算されています。筆者は化石や有機物に保存された炭素資料を用いることにより、現代の炭素排出量は地球歴史上の重大事象に相当するとの結論を得ました。二酸化炭素排出量の年間増加分は恐竜の絶滅をもたらせた隕石衝突時(年間約0.18ppm)あるいは5,500万年前の温暖化時(年間約0.11ppm)よりも多いのです。
現在大気中における二酸化炭素レベルは5,500年前や6,500万年前を大きく下回っていますが、大量の二酸化炭素が流入すれば気候変動は動植物が適応可能な速度を超えてしまいます。昨年発表された国連報告書はおよそ100万の動植物が絶滅危惧種であると警告しており、5つの主要因の1つに気候変動が挙げられています。
報告書によると地上に暮らす飛べない哺乳類の47%と、絶滅の恐れがある鳥類の25%近くが既に気候変動の悪影響を受けているとのことです。多くの研究者が気候システムは崩壊の分岐点-急速かつ不可逆な変動の瀬戸際にあるのではないかという恐れを抱いています。ひとたびこれが起きればその後破壊的な効果が続くことになります。分岐点の兆候はすでに現われつつあり、北極の気温上昇による氷の溶解、北極上空における強い西風・ジェットストリームの減衰などがその例です。
この現象により北に向かう暖気が北極地帯に流入する一方、極地の寒気団がシベリア、ヨーロッパ、カナダへ南下して来ます。気候区にも変化が見られ、熱帯は10年につき56~111kmのスピードで両極に向かって拡大・移動しています。熱帯内外の台風コースも極方向へシフトし、オーストラリアは大きな被害を受けることになります。
2016年、人類が地球に与える影響がどれほど大きいかを示す研究結果が発表されました。地球が次の氷河期に入るのはおよそ2万年後だったものが、二酸化炭素の温暖化効果によって過度に熱帯化が進む期間を生じるため、氷河期が5万年後まで遅れると言うのです。この間、地球上の大部分で巨大な嵐が吹き荒れるカオス状態が続きます。筆者の試算によると人類が生存できるのは適温で動植物が生き延びることのできる場所、つまり両極に近い地域と山岳に守られた谷間に限られます。
次に来る生物種絶滅を避けることは可能です。但しそのためには二酸化炭素排出量を劇的に削減した上、大気中の二酸化炭素を除去する技術を開発・応用しなければなりません。ただ今のままでは人類の活動によって地球上の大部分が居住不能になるという、自分たち自身が起こした地球規模の悲劇を迎えることになりそうです。
reference:iflscience