1986年の発災から30年以上経過したチェルノブイリ原発事故現場は、短時間であれば人が立ち入れる程度に安全なはずでした。ところが最近起きた森林火災によって再び放射線量が増加し、通常値の16倍にも達しています。
問題の原因は、チェルノブイリから半径30kmの立入禁止区域内で土壌や植生、木材に吸収されていた放射性物質が森林火災によって放出されたところにあります。この森は短時間であれば比較的安全に歩けるまでになっていたのですが、状況は火災発生によって劇的に変わってしまいました。
AP通信の報道によると火災が発生したのは4月4日土曜日、場所はヴォロディミリフカ村付近です。やがて火は100ヘクタールを超える範囲に広がりました。悪い事に火災の発生は意図的なものだったようです。100人以上の消防士が現場に急行しましたが、月曜日の時点でまだ2か所が延焼中です。飛行機とヘリによる空中消火も行なわれています。
<<写真>>延焼が続く2020年4月5日の写真
火災中心付近で測定された放射線量は毎時2.3マイクロシーベルト(μSv/h)と、現地の通常値0.14μSv/hを大きく上回りました。なお人体の安全を考慮した最大値は0.5μSv/h以下とされています。災害は広範囲にわたり、その結果大量の放射性アイソトープが放出されました。但しウクライナ当局は火災現場から離れた近隣地域の安全性を強調しています。ウクライナ環境検査サービスの最高責任者であるイゴール・フィルソフ氏によれば、原発から100kmほど離れたキエフ市では外出も窓の開閉も安全だと言います。
チェルノブイリ付近における森林火災の危険性については何年も前から専門家の指摘があり、当局も現地への立入制限強化や放火への厳罰化を求めているところです。ただ人為的であるかどうかに関わらず、かつての災害地周辺では火災は珍しいことではありません。
気候変動による気温上昇は植生の乾燥化を意味しますが、これに加えて腐食のスピードも落ちているらしいのです。おそらく放射能の影響で昆虫や微生物が死滅し、有機物が分解されないためでしょう。チェルノブイリ立入禁止区域に生える植物は生体としての構造が動物とは違って適応力に優れており、放射能の影響をさほど受けないようです。これは植物が死んだ細胞や組織を動物に比べて容易に置き換えることができるためだと考えられています。
reference:sciencealert