何千年も前、今のサンタエレナ半島にあたるエクアドルの地で大ナマケモノの一群が死期を迎えていました。化石資料に骨はつきものですが、骨格を隔てる堆積物がないことから、少なくとも22体の地上性アメリカナマケモノ(学名Eremotherium laurillardi)がほぼ同時期に死亡したものと考えられています。発見されたのは現在タール坑となっている場所ですが、それが死因というわけではなさそうです。
アメリカとエクアドルの古生物学者が収集した痕跡から推測したところによると、この大型草食動物は自身の排泄物による飲み水の汚染によって死んだと考えられるのです。研究チームは最新報告の中でこう述べています。「複数の証拠からナマケモノは沼地の岸にある生息地で群居し、集団で死亡したと推測されます。
現代の大型動物相における生態系から類推すると、集団死は干ばつや水場の汚染による病気、あるいはその両方によって引き起こされた可能性があります。現在でもアフリカのサバンナにある水場ではカバの群れによって同様の水質汚染が起こっています。」
エクアドル南西部の海岸地帯にあるタール池、タンケ・ロマで発見された集合化石は1万8千年から2万3千年前のもので、直ちに衆目を集めることとなりました。大ナマケモノは何百万年も繁栄した後1万1千年ほど前に絶滅した動物ですが、その行動や社会構造についてはほとんど知られていません。
これまで発見された時代が異なる数体の化石から、ナマケモノは群居性であったと推測されています。ただ彼らが生死を共にしたかどうかは明らかになっていませんでした。先の地で発見された数百体の化石はすばらしい宝の山で、677個の骨のうち575個がアメリカナマケモノのものであることが判明しました。研究チームはこれらが少なくとも22の個体に属し、その年齢も多岐にわたると推定しています。15体が成体、1体が亜成体、そして6体は未成熟体です。うち2体はかなり小さく、おそらく幼獣だと考えられます。
これらの骨は全て同一地層上にあり、互いを隔てる堆積物のない状態でした。これは集団が極めて短い期間内に死亡したことを表わしています。骨を隔てる堆積物がない点はロサンゼルスのラブリータール坑に見られるタール付着とも共通しますが、これとナマケモノの骨を単純に比較するのは誤りでしょう。
なぜならナマケモノが生息した時代、タンケ・ロマはタール坑ではなかったからです。過去の分析結果によると、アスファルト成分が発掘場所に侵入したのは骨が化石化した後のことです。研究チームによればアスファルト成分は骨のある地層に侵入しておらず、骨が堆積した後に積み重なったものと考えられています。
堆積物から推測すると、ナマケモノが死ぬ以前の環境は「低エネルギーで酸素が欠乏した状態」の沼地だったようです。なおチームが発見したのは骨だけではありませんでした。化石の下には植物が大量に見つかり、大変面白いことにそれは自生した植物ではなく消化・排泄されたものだったのです。つまりナマケモノは自らの排泄物溜まりの中で死んだことになります。
無論アスファルトの侵入によって最初から水が飲めなくなっていた可能性もあります。しかしこのナマケモノの墓場と不気味にも共通する状況がアフリカのサバンナに住むカバの間で起こっているのです。よく知られる通り、カバは大量に排泄を行なう動物です。
その排泄物は彼らが立ち寄る水場の水質を化学的に変え、住む魚を全滅させてしまうほどです。また時にはカバ自身が死んでしまうこともあります。研究チームはこう記しています。「本研究のデータに基づけば、タンケ・ロマにおけるアメリカナマケモノ集団の現代版がカバであるとも言えます。カバは群集を形成して水場で行動し、長時間水に潜ることによって熱や日射、昆虫から身を守る動物です。」「干ばつ時には水源が干上がり、周辺の植物も枯れて沼地はカバの排泄物で汚染され始めます。これは流域の生態系にかなりの悪影響を及ぼすことになります。水が完全に干上がる以前に、ほとんどの動物は干ばつが引き起こす飢饉や病気の犠牲となったことでしょう。」
ナマケモノの墓場の堆積物中に残る未消化の植物を見ると、植物が育つためには一帯が乾燥する必要があることから、水場の存在する期間はそう長くなかったものと考えられます。つまりナマケモノも似たような状況に陥り、水場が縮小して排泄物の割合が増えたために水が飲めなくなってしまった可能性があるのです。何という結末なのでしょう。人間の排泄物ならよかったのでしょうか。ナマケモノなら好んで食べたかもしれません。
なお研究結果は「Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology」に掲載されたものです。
reference:sciencealert