この奇妙な形は今まで自然界には分子レベルでしか確認されていません。バッキーボールと呼ばれる奇妙で多面的な図形が思いもよらず8千年前に生きていた海の生物に存在することが発見されました。
微小のバッキーボールの形状は宇宙塵やガス、ある種の岩の分子に発見されてきました。しかし科学者はそれよりもずっと大きなバッキーボールの形状を現代のヒトデやウニの近縁種である白亜紀に生息していた2種のウミユリの化石の中に発見し驚きました。ウミユリの体のプレートは多面的で、科学者たちがバッキーボールと呼ぶ中空構造をしています。
この発見は、奇妙なバッキーボールの形状がこのように大きなスケールで自然に形成されたという初の証拠となる、と科学者たちは新たな論文で報告をしました。
バッキーボールとは『バックミンスターフラーレン』の略で最大で60の炭素原子がサッカーボールの表面のように六角形と五角形につながっている大きな球状の分子のことです。この奇妙な分子は2010年に宇宙で初めて発見されました。バックミンスター・フラーという建築家が1940年代に普及させたジオデシミック・ドームという建築構造がこれに似ていることから名付けられました。
宇宙ではガスや粒子の中にバッキーボールが存在します。NASAによると、地球でもロウソクが燃える時に発生するガスや鉱物の中に検出されたそうです。しかし独特なバッキーボールの形状が現存、絶滅に関わらず生物に存在することは知られていませんでした、と論文の共著者で西オーストラリア大学の地球科学研究員でもあるアーロン・ハンター氏は話しています。
「化石にこのような構造を見たのは初めてのことです。」とハンター氏は声明で述べています。
ウミユリはカンブリア紀(5億4,300万年前~4億9,000万年前)に初めて出現しました。多くのウミユリの種類はP-T境界(およそ2億5,000万年前の古代と中大の境目)に死にましたが、いくつかの種は今日まで生き残っています。このグループの生物は萼(がく)と呼ばれるゴブレットのような形の体をし、枝分かれした腕がついています。British Geological Surveyによると、化石の形状の多くは海底に固着された茎のような構造をしていたそうです。
後期白亜紀の2種の化石(Marsupites TestudinariusとUintacrinus socials)の発見によって炭酸カルシウムでできた六角形と五角形の萼を詳細に見ることができました。論文著者はグラフを作ってこの生物の体がどのようになっていたのかを3次元で見られるようにプレートをマッピングしました。
この2種は全体的によく似た体制構造を持っています。しかしU. socialsは多数の4面か8面の小さな軽いプレートでできた大きな萼を持っていました。一方M.testudinarius の杯は比較的プレートが少なく、5面か6面しかなくそれぞれのプレートはU.socialsのものよりかなり大きかったのです。
どちらのウミユリにもバッキーボールのような萼がありました。「ボールのような構造はかなりの重量の負荷にも耐えることができるので、海での被害から身を守るためにこのような構造になったのでしょう。」とハンター氏は声明で話しています。
しかし、この2種の生物には決定的な違いがあることを科学者たちは論文に記しています。M.testudinariusの似たような形の大きなプレートからなる萼は、バッキーボール炭素分子に非常に似ています。そのおかげで強く安定しているのです。しかしU.socialisの萼はプレートの面の数が幅広いため曲がったり歪んだりしやすくなります。おそらくこの萼は捕食者から身を守ることよりも海に浮くことに役立ったのだろうと研究者たちは報告しています。
この非常に変わった体の構造はウミユリが世界中の海に適応し広がる一助となったことでしょう。しかし疑問はまだ残っており、この変わったバッキーボール状の体はどのように進化したのか、なぜ8,400万年前と7,200万年前に絶滅して消えたたった2つの種にだけこの形状が見られたのかはまだわかっていないことを論文で明かしています。
「なぜこのような素晴らしい構造が再び進化しなかったのか謎はまだ解明できていません。」とハンター氏は話しています。この研究論文は Paleontology.の5月号に掲載されたものです。
reference:livecsience