ヨーロッパシャコ(Squilla mantis)は囚われの身となることを好みません。「怒っている時の一般的なベースラインがあるんですよ。」と現在ミネソタ大学在職のケイト・フェラー氏は空気にさらされたシャコが激しく襲いかかろうとすることを思い出してクスクスと笑います。「私が行っていた電気生理学の研究のために、ヨーロッパシャコのエラが水中に浸った状態のままシャコの脚を水から出す方法を考えました。」とフェラー氏は当時のことを語りました。
しかし、イギリスのリンカーン大学のグレッグ・サットン氏が当時の彼女の研究室であるケンブリッジ大学の実験台を訪れた際にその甲殻類に気づき、空気中での攻撃力を測定したら面白そうだね、と話したのです。「誰もやったことがなかったですね。」とフェラー氏は説明しています
この生き物は水中では弾丸並みの速さでパンチをくり出すことで知られています。ですから水の抵抗がない空気中では目にも止まらぬ速さで一撃をくらわしそうな気がします。しかし、フェラー氏がパロマ・ゴンザレス・ベリード氏保有のハイスピードカメラを設置して怒ったときの行動を捉えたところ、この甲殻類の一撃は水中にいるときのそれとは程遠い弱さに驚きました。このときの発見はJournal of Experimental Biologyに掲載されておりhttp://jeb.biologists.orgでご覧頂けます。
「私たちは棒で腹部をつついて刺激してみました。お腹はシャコが嫌がる部分です。」と彼女は話し、この行為にはリスクが伴う場合があることを付け加えました。「このプロセスで一匹のシャコが私の手を刺して、白い洗面台が血で赤く染まった時の衝撃の写真があります。」と話し笑顔を見せました。
一見すると、シャコのパンチは水中でのパンチとおなじように見えました。しかし、フェラー氏が空気中でのバネの効いたパンチを分析したところ、その結果に困惑してしまいました。その動きは水中での動きの半分のスピードしかなかったのです。「空気中での打撃速度は18km/hしかなく、ヨーロッパシャコとしてはなんとも情けない結果です。」と彼女は言いました。
実際、彼女とサットン氏がこのヨーロッパシャコの打撃力は同じくバネを搭載したバッタのジャンプ力と同等だとしました。1.2gのシャコのハンマーには、バッタの足と同じ0.42wのパワーしか搭載されておらず、水中では4wのパアワーでハンマーをブンブン振り回すことができるのに、その10分の1のパワーに留まったのです。
ヨーロッパシャコの鈍い動きに困惑させられたフェラー氏とサットン氏は、このシャコのバネを搭載した推進メカニズムは、空気中では水中のように発動されないのではないかと考えました。しかし、甲殻類は環境によって打撃力を調整できることをシェイラ・パテック研究所が論文を発表しました。フェラー氏とサットン氏は空気にさらされたシャコは抵抗が低い環境に合わせて手加減したのかもしれないことに気がつきました。
しかし、フェラー氏の指をメッタ刺しにしたのに、なぜパンチは手加減したのでしょうか?「シャコが打撃による過剰なエネルギーを分散させたのではないか、というのが私の仮説です。」と話しています。バッタやほかの飛び跳ねる虫は、損傷から守るために後ろ足にエネルギー吸収構造を持っています。
一方、水中で爆発的なエネルギーを放出するヨーロッパシャコはターゲットとする強い敵や硬い殻を持つカタツムリによってエネルギーが分散されます。「空気中では水からの抗力がなくなるだけでなく、全体的に感覚が狂ってしまうので、攻撃を受ける標的がない場合には、力をフルに発揮せずに関節が損傷することを防いでいる」とフェラー氏は考えました。つまり、甲殻類が手加減するのは単なる自己防衛本能なのです。
reference:eurekalert