富士山が大噴火するとどうなるのか?

左右対称の円錐形に、頂上付近の白い雪化粧。日本の象徴ともされるその山こそ、富士山です。

富士山は、毎年多くの人々が登山に訪れるなど、私たちにとって身近な存在ではあります。美しくも雄大なその山体は、静かに人々の生活を見守ってくれているかのようです。

しかし、忘れてはいけないのは、富士山は火山であるということです。そして、歴史上何度も噴火を繰り返している、れっきとした活火山なのです。これは現代に生きる私たちにとって、あまり実感が湧かないことかもしれません。

それもそのはず。富士山が起こした最後の噴火は1707年。しかし、2012年には3合目付近でわずかに湯気が観測されるなど、依然として活火山であることは疑いようがありません。

では、この富士山が今噴火したら、何が起きるのでしょうか。近代化が進んだ現代。移動に車や電車を使い、蛇口をひねれば水が出て、携帯電話は大体の場所に通じる。私たちが当たり前と思っているこの便利な生活はどうなってしまうのでしょうか。

今回は富士山が噴火すると何が起こるのかについてご紹介したいと思います。

富士山が噴火するというのは、絵空事というわけではありません。現に、2004年に内閣府が富士山ハザードマップ検討委員会を立ち上げ、富士山の噴火が起きたときに何が起きるかを細かく検証しています。つまり、富士山の噴火とは現実的に起こりうる出来事であり、備える必要がある事象ということになります。

富士山は記録が残っているだけでも過去に16回噴火しており、特に平安時代の390年間では12回以上噴火しています。最後の噴火から300年以上経っている現代に生きる私たちにとっては、想像もつかないことでしょう。

一方で、一言で噴火に備えるといっても、火山の噴火は様々な形態をとります。すぐに思いつくのは溶岩と火山灰の噴出ですが、山体自体が崩壊することや、火山石を飛ばすことも噴火に伴う現象の一種であり、火山によってどの現象が起きやすいかが異なります。

では、富士山が噴火するときに、実際はどのような現象が起きるのでしょうか。

実は富士山は噴火のデパートと呼ばれるほど多種多様の現象を起こしてきている珍しい火山です。そのため、次に噴火するときに何が起きるかを予測するのは非常に困難。

例えば、約2900年前には富士山の東側の斜面が崩壊した結果、泥流が現在の三島を通って駿河湾に流れ込んだことが分かっています。このときは、火山灰は多くなかったと推測されています。

一方で、富士山において最大の噴火とされる1707年の宝永(ほうえい)大噴火では、100kmほど離れた江戸、現在の東京まで火山灰が降ったという記録が残っています。この宝永大噴火では、溶岩が流れ出たという記録はありません。

起きる現象が異なるということは、私たちへの影響も当然異なります。内閣府の検討委員会では、最大の噴火である宝永大噴火を基準として、噴火に伴う現象が同時に起きたことを想定して被害を推定しています。

これにならい、この動画でも宝永大噴火と同程度の噴火が起きたとして、何が起きるか、そして私たちの暮らしはどうなっていくのかを解説していきます。

まず、多くの場合、噴火の数日前から富士山の付近で地震が多く発生するようになります。火山性地震と呼ばれるこの現象は、地下のマグマが地表近くに移動するにつれて、岩盤に含まれる水分が急速に蒸発、膨張することにより岩盤が割れることで引き起こされます。

頻発する地震は恐ろしいものではありますが、噴火を数日前には予期できる可能性が高いということになります。すなわち、山の封鎖や近隣住民の避難開始を決断する猶予があるため、一概に悪いことではないかもしれません。

そして数日後、無人となった富士山が噴火を始めます。火口から大量の煙とともに軽石(かるいし)が噴き出し、1時間もしないうちに落下した軽石が静岡市や御殿場市の家屋を破壊し、火事を引き起こします。

また、溶岩が噴出する可能性もあるでしょう。富士山は火口が斜面に現れることも多く、次の火口がどこに出現するかによって大きく異なりますが、最悪の場合、溶岩流は2時間ほどで山のふもとを超え富士吉田市や御殿場市、富士宮市などの市街地に向かうことが想定されます。

噴火からおよそ3時間後。火山灰が降り始めます。火山灰がどこで降るかは当日の風向きにもよりますが、一般的には偏西風の影響を受けて富士山の東に降ることが多いでしょう。

富士山の東に何があるかというと、東京です。距離は100kmほど離れてはいますが、富士山の噴火による火山灰はほんの数時間でやってきます。大量の火山灰が降りしきる中、日中でも電気をつけないといけないほど暗くなることでしょう。

この火山灰が、最も厄介な問題であるとされています。仮に富士山が1ヶ月間噴火した場合、合計で降り積もる火山灰は小田原で30cm、横浜で10cm、東京で5cm、千葉県でも大部分で2cmと推定されています。

まず、人体への直接的な影響ですが、慢性気管支炎、肺気腫、喘息などを悪化させ、眼球を傷つけることが予想されますが、長期的な影響はさほど深刻ではないようです。

一方で、私たちの生活には甚大な影響を及ぼします。電車は車輪とレールの間に電気を流しているため、ほんの少し灰が降っただけでも運行できなくなります。車も、視界不良により徐行を余儀なくされます。飛行機を飛ばそうにも、滑走路は0.2cmの灰が積もっただけで使えなくなってしまいます。

このように、人の移動が困難になることは明白です。もし、なにも対策をしなかった場合、人が身動きのとれない中、食料や水などの物資も満足に輸送することができません。発電所や変電所にも灰が積もった結果、漏電が起こり大規模な停電も引き起こす可能性があります。

それから2~3日後まで、東京にいる人々はどうすることもできず、時折爆発的な噴火による空振で窓ガラスが振動する中、避難生活を余儀なくされます。その数、およそ370万人。

内閣府の想定では、首都圏に降り積もった火山灰を除去するのに、約1000台のブルドーザーを3日間フル稼働させて、ようやく3cmほどの灰を緊急用車両が通れるほどに除去できるとしています。

もしも雨が降った場合、灰の重さが増すためさらに除去が困難になります。噴火が起きてしまったら、2~3日は助けがこないと思った方がいいかもしれませんね。幸いなことに、最初の2~3日からは火山灰は徐々に弱まっていくでしょう。

しかし、その影響はまだ終わっていません。首都圏に降った火山灰は1億5千万立方メートルにも達し、これは1年間もの間、8000台のトラックが毎日稼働してようやく除去できるだけの量となります。

さらに、首都圏に限らず農作物への影響も甚大です。稲は火山灰に弱く、0.5cmほどの灰が積もっただけで枯れてしまいます。その影響は何年も続くと予想され、宝永大噴火の際は小田原の米の収穫量が数十年間にわたって低下したことが記録されています。

そのほかにも、火山灰が降り積もることにより、地盤が緩い場所では土石流の発生や、観光業への影響も懸念されます。このような最悪のケースを想定すると、被害総額は全て合わせて2兆5千億円にも達する可能性があります。火山灰の影響は何年も残ることは明白です。

さて、今までとても怖い話をしてきましたが、これはあくまで最悪のケースです。実際には、今回紹介した大規模な噴火よりも小規模の噴火の方がはるかに多く、次に噴火するとしても小規模である可能性が非常に高いです。

ですが、火山の噴火の規模を事前に予測することは困難で、宝永大噴火を上回る規模の噴火が起きる、という可能性も否定はできません。

そのときが来るまで、富士山は静かに人々の生活を見守ってくれているかのように見えるでしょう。しかし、忘れないでください。それは仮初の姿であるということを。



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