ブラックホールは、この宇宙で最も恐ろしく、最も謎につつまれた天体と言えるでしょう。
太陽質量の30倍以上の恒星が寿命を迎えることで自重を支えきれなくなり、超新星爆発を起こした後に出来上がります。いかなる物質でも、光でさえも、一度ブラックホールに近づくと吸い込まれてしまいます。
もし人間がブラックホールに吸い込まれてしまった場合、その強い重力によってスパゲッティのように引き伸ばされると考えられており、それが地球や太陽であっても同じ結末になるのです。
この全てを飲み込むとされるブラックホールは永遠に存在するのでしょうか?ブラックホールの内部はどのような世界になっているのでしょうか?
今回は、ブラックホールの内部には何があるのかについてご紹介したいと思います。
皆さんご存知の通り、ブラックホールとは宇宙にぽっかり空いた穴ではなく、その重力が非常に強いことを除けば、地球や太陽と同じ天体。
ブラックホールの本体は、「重力の特異点」と呼ばれる、自身の強すぎる重力により無限に潰れて点となっていると考えられています。
また、ブラックホールは重力が非常に強いため、一度ブラックホールに吸い込まれてしまうと、星や光であっても脱出することができません。そして光や物質が脱出できなくなる境界が「事象の地平面」と呼ばれています。
今回の動画では、この事象の地平面の内部に何があるのかに迫りましょう。
先ほどお話しした通り、ブラックホールの強大な重力は光さえも抜け出せなくなるほどで、事象の地平面を境に光が吸収されるため、ブラックホールの事象の地平面は真っ黒に見えます。
光を発することもなく、反射することもないため、ブラックホールは長らく理論上の存在に過ぎませんでした。しかし、2015年に重力波が観測されたことでブラックホールの存在が確認されたのです。
そして、2019年に撮影されたブラックホールの画像は皆さんも一度は目にしたことがあるでしょう。2019年に撮影されたブラックホールは地球から5000万光年離れたM87という銀河の中央に存在しています。
その質量はなんと、太陽質量の65億倍というとてつもない重さ。中央の黒い部分がブラックホールというわけではなく、本体はさらに内側に存在しています。
このような恐ろしい天体であるブラックホールですが、決して永遠に存在するものではありません。ブラックホールは時間を追うごとにほんの少しずつ小さくなっていき、最後には蒸発してしまうのです。
ホーキング放射と呼ばれるこの現象は、あの有名な物理学者、スティーブン・ホーキング博士が1974年に存在を提唱しています。
ホーキング博士は極微の世界の物理法則である量子論の考えを極大な世界であるブラックホールに当てはめて考えました。量子論によると、一見何もない真空と思われる空間においても仮想的な粒子のペアが生まれたり消えたりしています。
そして、こうした粒子の片方だけが、ブラックホールに飲み込まれてしまうことがあるのです。その時、飲み込まれなかった粒子は、その反動で遠方にはじき出されてしまいます。
この様子を遠くから観察すると、ブラックホールが粒子を放ち、その分だけエネルギーや質量を減らして小さくなるように見えるのです。これがブラックホールの蒸発と言われています。
例えば、太陽と同じ質量を持つブラックホールは蒸発するまでに10の67乗の年数がかかると言われています。参考までに、現在の宇宙の年齢は10の10乗ほど。
やがてはなくなると言われているブラックホールですが、私たちがその瞬間を目撃することはなさそうです。
では、謎に包まれた天体であるブラックホールの内部は、どうなっているのでしょうか。結論から言うと、もちろんよくわかっていません。
事象の地平面より内側では、どんな物質でも、そして光でも外に出ることはできません。これはつまり、事象の地平面の内部から外部に向かって情報が流れることが絶対にないことを意味します。
これに対抗する説もありますが、現状どんなに観測しても、どんなに内部を探ろうとしても、内部のことを知ることは不可能なのです。とはいえ、高度な知能をもつ人類はブラックホールの内部についていくつかの仮説を立てています。
有力な説として、事象の地平面を渡って内部に突入すると、空間と時間がおかしなことになるというものがあります。
アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論によると、事象の地平面の内部では空間と時間の役割が逆になるとのこと。
通常、私たちの世界では重力さえ無視すれば左右、前後、上下と自由に動くことができるでしょう。
一方で、時間は常に一方向、過去から未来に向かってしか進めません。しかし、事象の地平面の内部では、時間の進みそのものが、あらゆるものを中心にある重力の特異点に引き寄せていくと言います。
逆らうことは不可能です。どんなに努力しようと、私たちが過去に戻ることができないのと同様に、事象の地平面の中では重力の特異点から離れることはできないというのです。
仮にここでブラックホールの外部に目を向けることができれば、絶えずブラックホールに向かって落ちてくる物体や光を見ることができるため、非常に明るいそうです。
また、強力な重力の中では、そうでない場所と比べて時間の進みが遅くなる関係上、外にある宇宙は早送りのように見えるでしょう。その光景を楽しみながら、避けられない未来である、重力の特異点、ブラックホールの中心に近づいていきます。
重力の特異点は、計算上密度が無限大とされていますが、それが実際どうなっているのか、どんな様子なのかは全く分かっていません。
相対性理論によると、重力の特異点では時間そのものが破壊されるようですが、それが何を意味するのか、そもそも本当にそのようなことが起きるのかは一切不明となっています。
ブラックホールの中心に何があるのかの仮説としては、物体がこれ以上ないほど密に詰まったプランク星があるというものや、以前バイエンスでも紹介した別の宇宙につながっているというものもあります。
残念ながら、人類の現在の科学力ではブラックホールの謎を解くことはできないのです。
これに対し、アメリカのハーバード大学では、ブラック・ホール・イニシアティブと呼ばれるプロジェクトを設立し、ブラックホールの謎を解明しようとしています。
そのプロジェクトには物理学者や天文学者だけではなく、なんと情報処理技術者や哲学者なども加わり、日々研究を続けています。異分野の交流により、ブラックホールの謎が明かされる日がくるかもしれません。
そして、いつの日かブラックホールにダイブし、次元を超えた宇宙のパワーを感じてみたいものです。