地球上には、太古から姿を変えず、現代に蘇ったかのような生物が存在しています。
生きた化石と呼ばれるシーラカンスやオウムガイなどはその代表例ですが、「生きた恐竜」と呼ばれる生物も存在しています。それはインドネシアの諸島部に生息するコモドドラゴンです。
このヒトを遥かに超える巨体をもつ頑強なオオトカゲは、1910年頃に発見されると西欧諸国に驚きをもって伝えられ、それ以来人々は大きな関心を持ってきました。
イノシシやシカなどの大型哺乳類を集団で襲い捕食する姿は、まさに現代に蘇る恐竜ともいえるでしょう。このコモドドラゴンの生態はどのようなものなのでしょうか?コモドドラゴンはいかにして獲物を仕留めるのでしょうか?
今回は、コモドドラゴンに噛まれるとどうなるかについてご紹介したと思います。
コモドドラゴンは、有隣目(ゆうりんもく)オオトカゲ科に分類され、正式な和名はコモドオオトカゲといいます。インドネシアのコモド島とその周辺の島々に生息し、落葉樹林やサバンナ地帯、河口域を住みかとしていますが、海に潜ることも可能です。
平均的な体長は0.7m〜1.3mほどですが、しっぽまで含めた全長は2mから大きな個体で3mにもなります。今までで観測された最大の個体は、全長3.13m、体重は166kgに達していたと言います。
また、この様な巨体に似合わず動きは俊敏で、時速20kmで走ることができ、さらに持久力もあるのです。
ですが、所詮はトカゲ、人間様の敵ではないとお考えのあなた。コモドドラゴンは肉食性で、イノシシやシカ、水牛などの大型哺乳類を獲物としており、鳥類や他の爬虫類等、食べられるものなら何でも食べてしまいます。
襲われた人間もいると言いますが、それについては後ほど。また、嗅覚も非常に発達しており、4kmも離れた死骸の匂いを感知することができます。
では、このコモドドラゴンに噛まれたら、どのような変化が起こるのでしょうか?
まず、最初のダメージは鋭い牙によって与えられます。約60本ある最大2.5cmのノコギリ状の強力な牙は、後方へ湾曲しているため、噛まれると簡単に引き抜くことは出来ません。
この牙だけでも致命傷を与えることは多いのですが、コモドドラゴンは牙の間に毒管をもっており、噛みつく事で毒が流し込まれます。
通常ヘビの毒管は片側1本で、これが毒牙につながっていますが、コモドドラゴンの場合には、牙の間に複数の毒管が配置されているのです。
そして、この毒はヘモトキシンとよばれ、血液の凝固を阻害する作用があり、噛まれた相手は失血によるショックを引き起こします。腐敗菌による感染症も伴い、大型のウシでさえ2週間後には命を落とすとのことです。
以前の通説では、コモドドラゴンの口腔内には数十種類のバクテリアが繁殖しており、このバクテリアが噛まれた傷から侵入して敗血症により獲物を死に至らしめると考えられてきました。
おそらく、現在ご視聴になられているあなたもそう考えていたのではないでしょうか。しかし現在では、この通説は完全に否定されています。
コモドドラゴンの獲物への攻撃は、牙によるダメージと、創傷(そうしょう)部位から流し込まれる毒素によるダメージの「二段構え」になっているといえるでしょう。
言い換えると、コモドドラゴンの獲物は、最初の攻撃から逃れることができたとしても、傷から流し込まれた毒素により次第に衰弱するために生き延びることができないのです。
傷を負った獲物が逃げたとしても、彼らは優れた嗅覚を利用して、簡単に死骸へと辿り着くことでしょう。
それでは何故コモドドラゴンは、このように巧妙な獲物を仕留める方法を進化させたのでしょうか?
推測になりますが、コモドドラゴンの分布域には、数万年前まで肩高150cmのゾウが分布していたと考えられています。
そのような大型動物を捕食するためには、コモドドラゴン自身が大型化するだけではなく、致命的ではない創傷であっても確実に死に至らしめる毒素が、生き残る上で重要であったのでしょう。
また、コモドドラゴンは大型の哺乳動物や、病気などで死んだ動物の死肉を食べており、ヒトを襲うことは滅多にないとされています。
しかし、稀にヒトを襲うこともあるようで、現地ではヒト喰いトカゲとして恐れられています。コモド国立公園の発表によると、1974年以降に30人のヒトがコモドドラゴンに噛まれており、そのうち5人が亡くなっているそうです。
2007年3月には8歳の少年がコモドドラゴンに襲われ、彼のおじが駆け付けた際には、体が半分に裂かれ死亡していたと言います。
さらには、2009年にも果実を収穫するために、コモド国立公園の立ち入り禁止区域に侵入した31歳の男性が襲われ、隣人が助けに駆け付けたところ全身からの出血があり、その後まもなく死亡してしまいました。
コモドドラゴンがヒトを襲ったケースのほとんどが、誤って彼らの生息場所に近づいてしまったことが原因であり、コモドドラゴンの方からヒトの生息環境に入り込んでしまう場合は稀なケースです。
専門家は、コモドドラゴンに偶然遭遇してしまった場合には、「彼らから走って逃げないこと」を第一に挙げています。
何故なら、走って逃げると彼らの主要な餌であるシカやイノシシと間違われる危険があるためです。ワニの際は走って逃げることを推奨しましたが、コモドドラゴンの場合は異なるのです。
時速20キロメートルで走り、持久力もある彼らから、走って逃げ切れる自信のあるヒトは多くはないでしょう。
ですが、逃げ切れる自信のないヒトにも、コモド国立公園への観光を紹介するホームページには、彼らを安心させる次の一文が添えられています。
「現在では血清を打てば、死に至らないそうです。しかし、重大な障がいが残る可能性が高いため、レンジャーの指示には従うようにしましょう。」。
コモドドラゴンに噛まれた際に、生き延びることができるか否かは、咬み傷の程度と血清接種に至るまでの時間に掛かっている、といってよいでしょう。
ほんの些細な咬み傷であったとしても、血清のある病院に駆け込むのが少しでも遅れれば、死の危険は高まります。逆に、コモドドラゴンの群れに囲まれたとしても、咬まれさえしなければ助かる可能性が高いのです。
あっ、逃げてください!コモドドラゴンがすぐ後ろに!ご愁傷様です。