宇宙の果てに行った者の末路…

光の速さは、およそ秒速30万km。1ナノ秒あたり約30cm進む計算になり、これは30cm離れた物体を見た際、1ナノ秒前の姿を見ていることになります。

同じように、太陽なら8分前、太陽系から最も近い場所にある恒星のプロキシマ・ケンタウリでは4年前、最も近い銀河であるアンドロメダ銀河の場合は250万年前の姿を人類は目にしています。

現在では科学力の進歩により、約138億年間宇宙空間を進み続けた光も観測することができるようになりました。この光こそ、現在地球で観測できる宇宙の端っこということになります。

宇宙の端っこに何があるのか、気になりませんか。そこに行ってみると、何が起きるのでしょうか。そして宇宙の端のさらに先の光景はどうなっているのでしょうか。

今回は宇宙の端に行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。

宇宙の年齢はおよそ138億年。そのため、先程紹介した宇宙の端は、地球からおよそ138億光年離れている、と考えるかもしれません。しかし、実際には宇宙の端は約465億光年離れています。

計算が合わない理由は、宇宙自体が膨張しているためです。詳しい原因は未だに分かっていませんが、宇宙全体は風船が膨らむように大きくなっているため、重力の影響が及ばない遠い距離にある物体は全て遠ざかっているのです。間に存在する空間が大きくなるため、距離が離れていれば離れているほど、より速く遠ざかっているように見えます。

光が138億年に渡る宇宙旅行をしている間、光を発した場所も遠ざかり続けているため、138億年前に光を発した天体は、現在では地球から約465億光年離れているのです。この138億年前の光は、宇宙マイクロ波背景放射と呼び、ビッグバンからおよそ37万年後に発生した光であると考えられています。

それ以前の宇宙では、温度が高すぎて光が陽子や電子などに邪魔されるため、光は僅かな距離しか進めなかったという時代がありました。ビッグバンから約37万年後には、宇宙の温度がおよそ摂氏3000度を下回り、電子と原子核が結合して原子を形成するようになったため、光が自由に進めるようになりました。そして、そのときの光こそが、今人類が観測している宇宙の端なのです。

さて、この宇宙の端っこに今行ってみると、何が起こるのでしょうか。バイエンススーツがあれば、465億光年の移動など瞬時に可能でしょう。私達の想像を絶する世界が広がっているのでしょうか。ワクワクしますね。

おっと、無事移動できたようです。おや、あまり変わり映えがしませんね。私たちの住む天の川銀河と同様ではないものの、似たような銀河が存在します。

もしかすると、その中にも地球に似たような惑星があるかもしれません。地球と逆方向に、できる限り遠くまで見渡してみても、地球から見た風景と見分けがつかないほど、よく似ています。最後に見えるのは、地球から見た宇宙マイクロ波背景放射とほぼ同じ、138億年前の光です。

これは一体どういうことなのか。実は、地球から観測することのできる宇宙というのは、宇宙全体から見るとほんの一部なのです。地球から見た宇宙の端は、138億年前のその場所で発生した光が、丁度今の地球に届くような場所であるというだけのこと。宇宙全体にとっては、何も特別でない、なんの変哲もない場所です。

残念ながら、あなたたちは宇宙を少し侮っていたようです。仕方がありません。それでは、一方向に進み続けて、宇宙の端に到達することを目指してみます。こうすれば、時間はかかるかもしれませんが、いずれは宇宙の端にたどり着けるはずです。

早速出発しましょう。地球から465億光年離れた場所から、地球と反対方向に向かって進むことにします。宇宙の端までの距離は、どのくらいなのでしょうか。広い宇宙のことなので、1兆光年、いや、1京や1垓光年もあると予想するかもしれません。

しかし、宇宙は人間の想像を遥かに超えた領域。なんといくら一方向に進んでも、宇宙の端には永遠に到達しないのです。現在では宇宙にはそもそも端など存在しないというのが定説となっています。

これには、時空の曲率、すなわち空間そのものがどの程度曲がっているかが密接に関係しています。アルベルト・アインシュタインの相対性理論によると、重力とは物体を引き寄せる力ではなく、空間を曲げる能力であるとのこと。例えば、地球が太陽の周りを回っているのは、太陽によって曲げられた空間中を真っ直ぐに進んだ結果回っているように見えるのです。

これは物体だけではなく、光にも当てはまります。もし宇宙の曲率が0以下であれば、宇宙は無限大に広がっていると考えられます。

人間である私たちがイメージしやすいよう二次元に例えると、曲率が0の場合は、空間は1枚の紙のように平たく、それが無限大に広がっています。曲率が0より小さい場合、空間は馬の鞍型(くらがた)のような形をしており、それも無限大に広がっていきます。

一方、曲率が0より大きいと、宇宙全体はまるで球の表面のようになっていると考えられます。この場合は、宇宙の大きさ自体は有限であるものの、一方向に進み続けるとやがて元の場所に戻ってくるというものです。

残念ながらいずれの場合でも、宇宙に端っこなど存在しないということになります。曲率が0以下なら、宇宙の端を目指しても永遠に辿り着きませんし、曲率が0より大きいなら、進み続けてもやがては元の場所に戻って来てしまいます。

焦って出発したのが仇となったようです。地球から随分と離れてしまいました。宇宙の曲率が0以下であれば引き返すしかありませんが、ここまで来たら曲率が0より大きい可能性に賭けて、進み続けて地球に戻るという方法に切り替えた方が良いかもしれません。どの程度進めば、地球に戻ることができるのでしょうか。

残念でした。現在では宇宙の曲率はほとんど0であるということがわかっています。先程紹介した宇宙マイクロ波背景放射の画像を見てみると、赤い部分が温度の高い場所、青い部分が温度の低い場所になります。

ビッグバンから37万年後の宇宙の状況から、この温度が高い部分と低い部分の領域の大きさは理論的に計算可能であるため、地球から見てどの程度の大きさに見えるかも計算ができます。

もし、この宇宙に曲率があり、空間が曲がっているとすると、光も曲がるため温度が高い場所と低い場所の大きさは実際と違った大きさに見えるはずでしょう。しかし、地球から観測できる領域の大きさと、理論的な領域の大きさを照らし合わせると、ほぼ一致するという結果が得られています。

つまり、宇宙全体の曲率はほとんど0ということになるのです。なぜこうなっているのかは未だ解明されていませんが、そういう宇宙に私たちは暮らしているのだけは確かなことです。大人しく引き返しましょう。悔しいですが、いくら進んでも、宇宙の端っこには到達できないのです。

え?地球の方向を忘れてしまった?あちゃー、私はお先に帰りますよ。



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