我々人類、そして地球上の生物に多大な恩恵をもたらしている太陽。
太陽が送り出す大巨大なエネルギーによって生物は生命活動を維持し、子孫を作って地球上で繁栄することができています。太陽では常に核融合反応が行われており、その反応によってエネルギーを生み出していることは皆さんもご存知でしょう。
しかし、その反応によっては、人類に恩恵ではなく被害を与えることもあるのです。その1つの例が太陽で起こる爆発現象、太陽フレアです。
過去、この太陽フレアが原因である、また原因と思われる現象がいくつか記録されています。爆発現象が大きければ大きいほど、太陽フレアは大きくなり、地球に与える影響のリスクも高くなります。
もし記録されている中で最大の太陽フレアが現代で発生した場合、我々の生活にどんな影響が出るのでしょうか?そもそも、史上最大の太陽フレアとはどれほどのパワーを持っているのでしょうか?
今回は史上最強クラスの太陽フレアが現代で発生するとどうなるのか、についてご紹介したいと思います。
太陽フレアは、太陽表面で起こる爆発現象であり、太陽の表面から高さ1万km、大きなものでは10万kmのフレアが吹き上がります。そして電磁波や高エネルギー粒子、プラズマなどを宇宙空間に放出するのです。
太陽フレアは、小さいものであれば1日に数回発生しており、太陽の活動が活発な時期に太陽の黒点付近で発生することが多くなっています。
また、フレアとは火炎を意味する言葉ですが、この火炎が地球を焼き尽くすことはありません。太陽と地球の距離は約1億5000万km、フレアは大きなものでも10万kmの高さまでしか吹き上がりませんのでとても地球には届かないのです。
地球に影響を与えるのは、太陽フレアが宇宙空間に放出する電磁波や高エネルギー粒子、プラズマ、そして宇宙線です。
この規模が大きくなると、太陽嵐(たいようあらし)という現象が起き、地球に影響を与えます。放出する物質の1つであるプラズマが地球の磁気圏内に到達すると、オーロラや地表に磁気嵐を起こします。
この極地以外のオーロラについては、古い文献に記録されているものがあります。イギリスのアングロサクソン年代記では空に赤い十字架と大蛇が現れた、そして中国の新唐書には太陽のそばに青と赤の気が現れたという記述があります。
日本でも、続日本紀(しょくにほんぎ)に虹が空を巡ったこと、七色の雲が出現したことが記されています。これらの出来事は、西暦750年周辺に集中しており、太陽フレアによるオーロラではないかと考えられているのです。
他にも、西暦750年周辺に宇宙線が大量に飛来していたことは、屋久島の屋久杉の年輪、ドイツの老木の年輪の解析から明らかになっています。
さらに南極の氷からも、放射性物質が多くなっている層が見つかっており、この層は775年周辺の層に該当することがわかっています。
これらの現象は、太陽フレアの可能性が考えられているのみで完全に確証されているわけではありません。実際に、太陽フレアが原因となった現象を人類が確認するのは19世紀に入ってからになります。
1859年、イギリスの天文学者、リチャード・キャリントンが太陽フレア発生の観測に成功しました。
観測された日から次の日にかけて地球上では磁気嵐が起こり、ハワイやカリブ海沿岸でオーロラが確認され、なんとアメリカ北東部ではオーロラの光で新聞が読めるほどだったと記録されています。
さらに、ヨーロッパ、北米大陸の電報システムは全て停止し、電信用の鉄塔から火花、中には発火したものも確認されています。
地球に影響を与える太陽フレアはこの後も観測され、1989年の太陽フレアによる磁気嵐によってカナダのケベック州一帯で停電が起こるなどの被害が出ています。
太陽フレアは、放出するX線の量によって等級が決められており、観測が始まってから最も大きな太陽フレアは、2003年11月の太陽フレアとされています。この時、人工衛星などへの影響が懸念され、国際宇宙ステーションでも避難が行われたほどです。
しかし、太陽フレアの方向が地球を向いていなかったため、被害は限定的で、大きな被害はありませんでした。
また、2012年の太陽フレアはキャリントンが観測した1859年の規模と同じくらいでしたが、起こった太陽嵐は地球を直撃せず、かすめたのみで終わってしまっています。
2012年の太陽フレアは、発生が1週間前であれば地球を直撃していたと予想されています。太陽フレアの方向によっては、大きなものであっても地球への影響は限定的で終わります。
しかし、もし過去に観測された最大級の太陽フレアが地球方向を向き、起こった太陽嵐が地球を直撃した場合、現代では我々の生活にどのような影響があるのでしょうか?
太陽フレアによって太陽嵐が起き、8分後にはまず電磁波が地球に到達。その後、数時間で放射線が、数日後にはプラズマが到達します。
この時誘導電流が、電子回路、電気回路、送電線に入り込み、電力系統が混乱します。厄介なのは、この時に起こるのが停電だけでなく、電磁パルスなどによる被害も起こるということです。では、順を追って見てみましょう。
まず太陽側にある全ての人工衛星の機能が、太陽嵐によるプロトン現象と呼ばれるもので停止すると考えられます。
コンピュータのメモリは電荷で記憶されており、自己修復機能も備えていますが、その機能をはるかに越える異常が起こり、電子回路が使い物にならなくなることでしょう。
通信衛星やGPS衛星など、我々の生活で人工衛星に依存しているものは多数ありますが、これらは全く使えなくなってしまいます。そして地球上では、誘導電流によって送電線、変圧器に大きな被害が生まれます。変圧器のうち高圧変圧器であれば破壊されるものも出てくるほど。電力供給は完全に停止し、破壊された機器の交換、修復を考えると完全復旧には10年近い歳月が必要だと考えられています。
また、被害は電力だけではありません。通信線はほとんどが使い物にならなくなります。人工衛星はすでに使い物にならなくなっており、人々が情報をやりとりする手段がほぼなくなります。
人工衛星に被害を与えたプロトン現象は地上まで影響することはないと考えられていますが、地上を襲う磁気嵐は我々の生活を一変させてしまう被害を与えるのに十分な力を持っています。
太陽フレアによる太陽嵐が起こった後の数年間、大混乱によって我々の生活はほぼ1800年代のレベルまで戻ってしまうという予想もあります。
また、水道管、ガス管などの金属製のものにも誘導電流が流れるため、劣化が早くなることが考えられます。そのため、こういったもののメンテナンスのサイクルを早める必要が出てきます。
全米研究評議会の計算では、1859年の太陽嵐と同レベルであり、かつ地球を直撃するとすれば被害総額は全世界で約2兆ドルの被害が出るとされています。
この時、空にはオーロラが輝き、幻想的な夜空が出現します。太陽嵐を受けた時の地軸の確度などの条件によっては日本でもオーロラが見られるでしょう。しかし電力を失った我々にその夜空を楽しむ余裕があるのでしょうか。
現在は観測網の整備によって、太陽フレアの出現予測の精度は上がってきています。地球を直撃しそうな太陽嵐を予測するための、宇宙天気予報を行うために各国で研究が進んでいます。
しかし現時点で起こる事は予想できても、地球に襲いかかる太陽嵐を防ぐ方法はありません。太陽フレアの方向など、人類にはどうしようもできない条件に頼るしかないのが現状なのです。
まあ、しかし、コロナウイルスが繁栄して、日々の暮らしに大打撃を受けたとしても対策を考え、対処できるのが人間です。
たしか1800年代の日本といえば、江戸時代後期、ペリーが黒船で来航したころですが、あなたたちは何とか耐え忍ぶことができると思いますよ!