偽薬を本物の薬物と思い込ませることでサイケデリック体験を引き起こすことに成功

プラセボ(偽薬)効果は不思議な現象です。これが起きると砂糖程度の効果しかない錠剤であたかも本物の薬を飲んだかのような反応が現われるのです。この奇妙な現象は何百年も前から知られていましたが、このような思い込みがいかにして成立するかについては科学者による解明の努力にもかかわらず謎のままでした。

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ただひとつ確かなことがあります。最近の研究によればプラセボ効果はさまざまな薬の効力に関して有効であり、心に影響する幻覚物質-正確にはそれを服用したと信じること-についても起こりうるのです。

偽りの実験を敢行したのはカナダ・マギル大学の研究者で、「イプロシン」と呼ばれる幻覚剤の効果を調べるためと称して学生が集められました。合計33名の被験者は少額の謝礼を受け取り、まるで昔ビートルズが来たパーティー会場かと思うようなデザインの研究室で実験に参加しました。

壁にはサイケデリック調のアートが掛けられ、セラピー用の色付きライトで照らされています。床にはマットやお手玉が散らばり、スクリーンはアートシアターの映像を投射、DJがターンテーブルでBGMを流していました。この快楽主義的で心を解き放つ夕べに、与えられた薬を飲んだ参加者の何人かは白衣姿の研究者が監視のため歩き回る中、明らかに見て分かるほどトリップしていました。ただ1つ問題は、どれもが本物ではなかったという点です。

イプロシンは実在する合成薬ですが、参加者に渡されたのは全て偽薬でした。研究者の白衣もそれらしく見せるための演出です。ではトリップしていたのは?そのために雇われた俳優だったのです。

全ては暗示力と効果のない偽薬だけでサイケデリック体験を引き出せるか調べるためのでっち上げだったというわけです。そして結果は、可能だということでした。実験の質問票では半数以上(61%)の被験者が飲んだ「ドラッグ」の影響で心が軽くなる、絵の色が変わって見える、リラックスする、感覚が鋭敏になる、笑いたくなるなどと感じており、中には吐き気を覚えた者もいました。

多くの被験者が自分の感覚を幻覚剤のせいだと信じて疑わなかったのです。「体が沈むような感覚でした。」ある被験者はこう語っています。「重力に強く引かれるような・・・頭の中、特に後ろあたりが。」また他の者は一種の幻覚を見たようです。「この絵を見るまでは何ともなかったのに、絵が動いて見えました。色が変わっていくだけでなく、絵自体が形を変えていったんです。」

もっとも全員が同じように感じたわけではありません。およそ40%の参加者は実験中何も異常を感じなかったと言います。それでも研究者はこれほど大勢が幻覚剤でハイになったと思い込むのは注目に値すると考えています。「知られている限り、無効な偽薬による幻覚を報告したものとしては最も強力な意識変化であると言えます。」研究チームはこう説明しています。

この実験は単に無自覚な被験者をだますことが目的ではありません。マギル大学のチームはあまり知られていない「接触高揚」と呼ばれる現象を研究しようとしているのです。これは薬を飲んだ人の近くにいただけで、自分が飲んだわけでもない薬の効果を感じる現象です。「プラセボ効果と似たこの高揚状態は、古典的な条件付けだけでなく物理的・社会的な環境設定によっても起きる」と彼らは記しています。

このようなアイデアは遅くとも1960年代には存在していましたが、現代では治療を目的として幻覚剤への関心が復活し、こうしたプラセボ効果も患者の役に立つ方向で使えるのではないかと考えられています。「この研究はサイケデリックな環境において文脈が力を持つということを裏付けています。」精神医学者で、元マジシャンでもあるジェイ・オルソン氏は言います。「最近うつ病や不安症などの精神障害に対するサイケデリック治療が再登場していますが、療法士がこのような文脈的要素をてこにして少ない投薬量で同じ治療効果を得られるのであれば、投薬の安全性も高まります。」今後さらなる欺瞞行為を要するとしても、目的は崇高なのです。

でも怖がる必要はありません。実験が終わって計略の全貌(そして研究の真の目的)が被験者グループに明かされると、ショックや失望も見られましたが笑いも起きました。「間違いなく何かハイを感じた」被験者の女性などは、どこで偽薬が手に入るのか知りたがったほどでした。

研究は「Psychopharmacology」に発表されたものです。

reference:sciencealert



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