エアロゲルと呼ばれる不思議な材料がある。主成分はガラスと同じ二酸化ケイ素で、体積の99%が空気で形成されており、『凍った煙』と呼ばれるほど超軽量で、さらには非常に高い断熱性を誇る。
エアロゲルを手に取ってみると、とても不思議な気持ちになる。あまりに軽いので、ほとんど重さを感じさせない。それは凝固した霧や煙の塊のようで、発泡スチロールにも少し似ている。そして、自重の2000倍もの重さを支える強度を持つものもある。耐えられる重さの限界を超えると、ガラスのように粉々に粉砕するそうだ。
また、エアロゲルが注目される点として非常に高い断熱性があげられる。エアロゲルは体積の99%が空気でできており、その性質のおかげで、可視光を透過し、有害な紫外線を遮断する。
優れた断熱材であるエアロゲルは、さまざまな分野の活躍が期待されている。その一つとして、今年7月にハーバード大学の研究チームが、エアロゲルを使用して火星の地表を温めるという研究論文を科学雑誌「Nature Astronomy」に発表した。
発表された論文によると、火星の地表を実験的に再現し、そこに厚さ2~3センチ程度にエアロゲルを敷き詰めたところ、火星における太陽光を模した照明からの光だけで、最大で摂氏65度も温められることが明らかになったのだ。これは、火星の地表面を温めて、水の氷を融かすのに十分な温度。
火星の冬の気温は夜になると摂氏マイナス90度にまで低下するのだが、エアロゲルを使うことで火星の厳しい冬を乗り切れる可能性が示唆されている。
NASAのジェット推進研究所(JPL)に所属する地質学者のLaura Kerber氏によれば、火星に基地を建設するには豊富な水と適度な気温がそろっていることが理想的ではあるものの、水の氷は気温が低くなる高い緯度の地域に存在している。エアロゲルがあれば、こうした水を得やすい地域にも温かい環境を作り出すことができるだろうとしている。
とはいえ、エアロゲルは高く評価されている一方で、コスト面での問題が課題となっている。これはエアロゲルが超臨界乾燥装置という非常に高価な装置を用いなければ作成することができないため。
そのため、量産化がカギであり、成功すると価格が大幅に下がり、より多くの分野で手軽にエアロゲルが使用されることになるだろう。