通常のウォッカの製造過程ではボトル1本につき約6キログラムの温室効果ガスを排出するとされていますが、Air Co.(エア・カンパニー)製のウォッカは1本あたり約450グラムの二酸化炭素を削減します。
スタートアップ企業Air Co.が製造販売する新ブランドのウォッカは、酵母ではなく大気中の二酸化炭素を使ってつくられています。ボトル1本分をつくるごとに減る二酸化炭素量は8本の木が1日に取り込む量に相当します。
「このウォッカをつくる技術は電気とともに二酸化炭素と水を利用するものです」とAir Co.を共同設立した電気化学者のスタファド・シーアンは言います。
同社は今日(2019年11月7日)、ニューヨーク市内の厳選したバーやレストラン、小売店でこのウォッカの販売を開始しました。「植物が二酸化炭素を摂取する光合成からヒントを得ました。植物は水分を吸い上げ、エネルギーとして日光を利用し、酸素のみを副産物として発生させながら糖類のようなものや他のより価値の高い炭化水素を作ります。このウォッカの製造も同じプロセスです。つまり、排出されるのは酸素だけなのです。」
典型的なウォッカの場合、製造過程で約6キログラムの温室効果ガスを排出すると考えられていますが、Air Co.社のウォッカは、実は1本あたり約450グラムの二酸化炭素を減らすので、二酸化炭素の吸収量が排出量を上回るカーボンネガティブな製品なのです。
付近の工場が出している二酸化炭素(うまいことに従来の酒類製造方法によって発生したもの)を回収し、ブルックリンにある自社蒸留所内で水を水素と酸素に電気分解します。
酸素は大気中に放出し、水素は二酸化炭素と結合させます。「化学反応装置の中で特殊な触媒を使ってこの工程を行うとのことです。これは料理にたとえれば、秘伝のソースといったような感じなんだそう。水素と二酸化炭素を結合させるとアルコールと水が生成されます。
最後の工程は蒸留による水の除去です。蒸留所での工程を含む、この一連のプロセスはすべて太陽光発電で行われていることから、シーアンはこのようにも述べています。「製品ライフサイクル全体で使われるすべてのエネルギーの炭素集約度(1単位当たりのエネルギーを利用するときに排出される二酸化炭素の割合)を最小限に抑えられます。そして、最終的には正味でカーボンネガティブな製品となるのです。」
また、Air Co.製のウォッカは、酵母を使う従来の方法でつくられたウォッカよりも純度が高いと同社は説明しています。発酵させる方法では、蒸留によって取り除くことの難しいメタノールや石炭酸のような不純物が発生してしまいます。
同社の共同設立者の一人であり、最高経営責任者を務めるグレッグ・コンスタンティーンはこう説明しています。「当社のプロセスではそういった不純物の発生を回避しています。不純物を多く含有するウォッシュ(蒸留される前の発酵中の液体)をつくり出すような、より大きな分子の分解を行うのではなく、二酸化炭素の分子をつなぎ合わせる(エタノールを生成するために「積み上げる」)ことでこれを可能にしています。」
このプロセスは、二酸化炭素を燃料に変える技術に関連しています。食品業界で二酸化炭素を利用している企業はいくつかありますが、市場の先駆者となったのは、おそらく、Air Co.です。後に続くと見られている企業には、フィンランドのスタートアップのソーラー・フーズとサンフランシスコ湾岸地域を拠点とするスタートアップのKiverdiがあります。
ソーラー・フーズは二酸化炭素からタンパク質の粉末をつくる技術開発をしており、Krverdiは二酸化炭素を元にしたタンパク質のほかに、パーム油に代わるものとして持続可能に二酸化炭素からつくる合成パーム油の開発を進めています。
Air Co.はまず、共同設立者たちが行きつけにしているイレブン・マディソン・パークやグラマーシ・タバーンなどのミシュランの星付きレストラン、数軒の酒店、そして酒類配達サービスのオンライン・プラットフォーム、ドリズリーで販売を開始しました。
拠点を置くニューヨークで試験販売後、米国内のいくつかの地域で蒸留所を始める計画があるそうです。
輸送を最小限にするために各地に拠点を置き、全国展開することを目標にしているそうです。
reference: fastcompany