量子物理学がまたもや古典物理学を覆しました。今回は、熱が伝わるのに通常は必要となる原子や分子がまったく存在しない、真空を熱が移動できることが量子物理学的見地から実証されました。
この調査は、カシミール効果として知られている量子の不思議な性質の一部を活用したものです。真空は実際には空っぽではなく、周りの物体に干渉する可能性のある小さな電磁気のゆらぎで満ちているのです。
カシミール効果によってどのようにナノ粒子が真空の中を移動し、2つの物体が近づくのかということは、これまでに実験で明らかにされています。今回の最新調査では、熱の伝導においてどのようにカシミール効果が作用するのかを実証しています。
この発見は、ナノスケールの電子部品の設計ばかりでなく量子コンピュータの設計にさえ、影響する可能性があります。つまり、私たちの使うコンピュータのデバイスが小型化する風潮の中で、熱が最小スケールを伝わるための管理ができるようになるということです。
「熱は普通、原子や分子、あるいはフォノンと呼ばれている物の振動を通して個体の中を伝わります。けれども、真空には物理的な媒質がありません」とカリフォルニア大学バークレー校の機械工学士、張翔(Xiang Zhang)氏は言っています。
「ですから、長い間、フォノンは真空を移動できないと教科書には書かれていました。驚くべきことに、私たちが発見したのは、フォノンは目に見えない量子のゆらぎによって真空を実際に渡って行くということだったのです」
このことは、真空の実験室の中で数百ナノメートル離して置かれた2枚の金めっきされた窒化ケイ素膜を使って実証されました。2枚の膜の間の空間には無視できるほどごく少量の光エネルギー以外、完全に何もないという条件で、片方の膜を加熱すると、もう一方の膜も熱くなったのです。
これより大きなスケールでは同様の結果になりません。熱は隙間を容易に渡って行けないという、この原理を利用しているのが魔法瓶です。魔法瓶の中の真空の層があなたの飲むコーヒーを保温します。しかし、最小のスケールでは異なる現象が起こり、その意義は計り知れません。
この実験に関することは膜の温度管理から実験室の徹底した防塵まで、すべて、細心の注意を払って設定され、管理される必要がありました。
熱が移動する間隔は非常に狭いとは言え、熱を伝える他の要因(たとえば、太陽が真空の空間を通って地球を温めるような電磁放射によるエネルギー)を排除するのには、相対的に言って、充分な距離でした。
この調査を手掛けた研究者たちはさらなる進展を見込んでいます。熱が真空を移動できるのなら、音も伝わる可能性が考えられます。結局は、どちらも移動するのに分子の振動に頼っているからです。
それを証明するには別の実験を待たなくてはなりません。差しあたっては、研究チームは、未来のコンピュータや電子機器の内部の熱流を管理するためにこの特殊な量子効果を利用する方法を調べています。
「今まで知られていなかった熱伝導のしくみを発見したことで、ナノスケールでの温度管理を可能にする空前の機会を切り開きました。このような温度管理法はコンピュータの高速計算やデータ記憶に重要なものです」とスタンフォード大学の機械工学士リー・ハオクン(Hao-Kun Li)氏は述べています。
これによって、集積回路内の熱を取り除くために量子真空を利用できるようになりました。
reference: sciencealert