もし死人が話すことができたら言いたいことはたくさんあるでしょう。現代の技術をもってしても音が一つしか出せない、舌がない状況ではそれは難しいことです。この不可能な状況で3000年前のエジプトのミイラから「エェーーー」とわずかな唸り声を聞き出せたことは成功と言ってもいいでしょう。
数千年もの間人目に触れず、科学者が3Dプリンターで忠実に再現したミイラの声道からようやく聞くことができたのはbed(エ)とbad(ア)の母音の中間の音でのうなり声でした。
「彼は今のところ話すことは全くできません。」とロンドン大学の音声科学者デヴィッド・ハワード氏はNew York Times誌に対し認める一方、次のようにも話しています。
「しかし、いつの日かミイラが生きていた当時の声を限りなく近く再現して言葉をつぐむことは可能だと思っています。」
ハワード氏は以前にもこのような試みをしていますが、生きている人間の声帯でしか経験ありませんでした。しかしこの経験から、この母音1つを発することが現実的なところだと話しています。そこから話をするようになるには明らかに大きな壁があります。ですが、その大きな壁を超える第一歩はすでに踏み出しているのです。
2016年にはCTスキャナーを使いアイスマンのミイラの声を再現することができたのです。アイスマンの母音はネシャムンよりもずっとしわがれた声です。
当時の声の再現方法はネシャムンの声道の再現と似た方法で唇から咽頭まで作成して行われました。拡声器とコンピューターを繋ぎ人口咽頭を作り、コンピューターを使って声道に音を発生させるのです。
今回のたった一つの母音の音が出たという結果は言葉をつむいだとは十分に言えません、と論文に記されています。実現するためには音声学や古代人の言語、声道発音に特化した知識がもっと必要です。
もしかしたら舌が役に立つかもしれません。ミイラの声道は数千年もたった今も状態は素晴らしいものでしたが、その筋肉の大部分はなかったのです。
「ミイラに舌をつけて発声の知識を駆使すれば声道全体を動かすことができます。」とハワード氏はCNNにコメントしています。
「実現可能ですが今のところはまだ技術的に追いついていません。」
古代エジプト文化では、『死人の名を呼べば生き返らせることができる』と信じられていました。ミイラの棺には、『ネシャムン、声の真実』と書かれています。いつかきっと彼の滑らかな声でその碑文を読み上げる日が来るでしょう。
reference:sciencealert