世界には極めて凶悪なギャング組織があり、その活動は国境を越えています。殺人を犯し、麻薬の生産と密売を行い、地元企業をゆすります。政治家に対して贈賄もすれば恐喝も行い、売春業や違法な賭博業を運営する一方で人身売買に従事して、廃棄物を違法に投棄。さらに大企業を経営するなど合法ビジネスを展開しているケースさえあります。
この記事では世界の極悪ギャング組織、7つを紹介します。評価の基準とするのは組織の規模、国際的な活動範囲、地元への影響力、暴力の行使度です。
ヘルズ・ンジェルズは「自分たちは法を順守するオートバイ愛好家集団だ」と公言していますが、米国およびカナダの組織的暴力団としては、おそらく最も有名であるとともに最も崇拝されている集団と言えるでしょう。ヘルズ・エンジェルズ・モーターサイクル・クラブは北米を主な拠点としていますが、27ヶ国に支部を持っています。麻薬密売、地元の麻薬売買、強盗、売春、恐喝に深く関わっており、北米各地で夜の歓楽業などの合法ビジネスを幅広く牛耳っています。
翼をつけたドクロのロゴが描かれたワッペンやジャケットを身に着け、ハーレーダビッドソンのバイクを乗り回していることで最もよく知られています。警察当局は四大バイカーギャングのなかでも最強の組織とみなしています。
ヤクザは日本において最も影響力のある組織犯罪団体と言えますが、当記事で取り上げている他の反社会的組織に比べると、総じて有力なヤクザの組は日々の活動において暴力の行使を最小限に抑えています。とは言っても、恐喝や殺人と無縁なわけではありません。ヤクザの最大勢力である山口組の組員は3万9,000人を数え、日本の全暴力団員のほぼ半数を占めています。
大物政治家と極めて密接なつながりを持ち、日本の日常的な商取引とも結びついています。組員は窓をスモークドガラスにした高級車に乗り、特徴的な入れ墨を入れた体に派手なスーツをまとって指先のない手を見せつけるという示威行為をします。何か失敗を犯した組員は反省や謝罪の意を表すために指を切り落とす慣習があるのです。トラブル回避のために、入れ墨を露わにした組員の出入りを断る施設や店が少なくありません。
ヤクザは様々な違法行為(多くの場合、暴力を伴う)と関連付けられますが、人道的な行為をすることもあり、通常は一般市民の犠牲者を避けようとするため、日本社会で比較的オープンに活動し続けることが可能になっています。
米国と中米において最も悪辣と目されるギャング集団。MS-13とも呼ばれるマラ・サルバトルチャは、多くの血の流れたエル・サルバドルの内戦直後の1980年代に米国カリフォルニア州南部に逃げてきたエル・サルバドル人の移民たちが結成した不良集団(マームラ)が元になっています。
当局は中央指導部のある組織とは認めていませんが、MS-13は中米、メキシコ、米国の全域に広がる国際勢力に発展しています。
当初はメキシコのカルテルの用心棒として雇われ、悪名を馳せていたのですが、以来、独自に凶悪な脅威となる存在に成長しました。メンバーはタトゥーを入れていることと目的のためには残虐な暴力を厭わないことで知られています。
米国連邦捜査局(FBI)がまとめた2011年のギャング脅威の評価報告書ではMS-13について丸々1セクションが割かれており、現在、米国で最も警戒すべき犯罪組織であることが見て取れます。FBIはMS-13専門の特殊部隊を設立し、対策に乗り出しています。
イタリア・マフィアの内でも極めて強大な影響力を持つ暴力的な派閥、それがカモッラです。中心となる指導部はありませんが、それゆえに堅牢な集団となっています。合計で6,700名以上の構成員を擁する111前後の団体がゆるく提携している組織と考えられています。
イタリア・マフィア研究の第一人者であり、調査ジャーナリストでもあるロベルト・サヴィアーノ氏は、組員数・影響力の度合い・経済力・目的のために行使する暴力の度合いに基づいて評価するとカモッラはイタリア・マフィアの最大勢力であると考えています。犯罪行為に加えて、イタリア全土で多数の合法ビジネスを牛耳っている強大な派閥なのです。
カモッラは想像し得る限りの犯罪行為に実質的に関与していますが、特に地元の企業や商店にみかじめ料の恐喝をすることで有名です。支払わなければ放火や殺人で報復されます。賄賂や暴力を利用して地元の政治家や警察を影響下に置いているため、カモッラに所属する団体は縄張りとする地域において甚大な影響力を持っています。
ソルンツェフスカヤ・ブラトワのブラトワは「兄弟」を意味しており、同胞団を標榜しています。「ロシアン・マフィア」として知られる、ゆるく組織化された暴力団の集まりのなかで一大勢力となっている団体だと考えられています。
この組織に関する情報は限られているのですが、リーダーであり創設者でもあるセルゲイ・“ミハス”・ミハイロフについては、マフィアというよりビジネスマンとしてふるまっているということが知られています。
この組織はロシア全土および国外で数百もの合法事業をコントロールしていると見られています。合法事業に深く関与しているにもかかわらず、事業目標を達成するためには競合相手を平気で殺したり暴力を使って排除したりします。
また、ロシアの裏社会のあらゆる面に実質的に関わっており、伝統的にマフィアが運営する全領域にわたって違法ビジネスを行っています。例を挙げると、売春、恐喝、贈収賄および脅迫、クレジットカード詐欺、人身売買、武器取引、株式詐欺、資金洗浄、さらにはオンライン詐欺やハッキングまでも行っています。
ソルンツェフスカヤ・ブラトワの勢力はロシアの国境をはるかに超えて拡大しています。米国にも強い影響力を及ぼし、特にシカゴ、サンフランシスコ、マイアミ、グランド・ラピッズ、ニューヨークで力を振るっています。
かつてはメキシコで最も大きな勢力を持つ麻薬カルテルであったこの組織は現在も強い影響力を維持しており、メキシコの麻薬取引の主権をめぐってロス・セタスや比較的小規模なカルテルと抗争を続けています。ボスは悪名高い億万長者、ホアキン・“エルチャポ”・グスマン。全世界で最も裕福で強力な麻薬密売人として広く知られています。
“エルチャポ”(スペイン語で「ちび」を意味する)は2009年から毎年、経済紙フォーブスの『世界の最も影響力のある人物』のリストに名前が載るほど強大な力を持っています。(訳注:リストに含まれていたのはメキシコ軍とアメリカ捜査当局によって身柄を拘束された2014年の前年2013年まで。現在は終身刑で服役中。https://www.forbes.com/sites/doliaestevez/2014/11/05/mexican-drug-lord-el-chapo-guzman-out-of-most-powerful-people-ranks/#5c2a9123520d
)また、米国麻薬取締局(DEA)には「麻薬界のゴッドファーザー」と呼ばれていました。
メキシコの麻薬カルテルの最大勢力がシナロア・カルテルなのか、ロス・セタスなのかということに関して専門家の間では意見が分かれています。構成員の公式の人数を知ることはほぼ不可能なので、シナロア・カルテルは国際的麻薬取引の場で有数の勢力であるということ以上は明らかではありません。いずれにせよ、ロス・セタスやメキシコの多数の他のカルテルと今後何年にもわたって暴力的な抗争を続けていくと見られます。
メキシコは10年近くの間、暴力的な麻薬戦争に悩まされてきました。これまでに5万人の命が失われたと言われています。(訳注:2020年現在まで14年間、紛争は続いており、2019年までに15万人が亡くなったと推定されています。2006年にフェリペ・カルデロン大統領(当時)がメキシコの麻薬カルテルに宣戦布告して以来、かつてはすばらしい街だった多くのメキシコの都市が戦場と化しました。数十億ドル相当の麻薬を米国へ運ぶルートの覇権を制するための争いが続いているのです。
2006年以来、メキシコで拷問や殺人が定期的にトップニュースになっているのは、暴力的であることで悪名高いロス・セタスと古株のシナロア・カルテルの間の縄張り争いがたいてい原因となっています。メキシコ軍のエリート特殊部隊が除隊後にガルフ・カルテルの傭兵部隊になることで実入りの良い麻薬売買に手を染めたのがロス・セタス結成のきっかけでした。
最終的にガルフ・カルテルのこの実行部隊は麻薬売買の分け前を強奪して離脱し、ロス・セタスを結成しました。この集団は容赦なく人を殺し、ライバル組織の組員、密告を疑われる者、警察、政治家、ジャーナリスト、さらには無実の一般市民まで拷問にかけます。軍事訓練を受けた暗殺者たちによって麻薬戦争の暴力性を新たな水準に引き上げる麻薬カルテルがつくられたのでした。
現在、ロス・セタスはメキシコで最も勢力が大きく、高い収益を得ている危険な麻薬カルテルだと見られており、世界で最も凶悪なギャング集団である可能性が高いのです。2012年10月にメキシコ海兵隊と銃撃戦が勃発し、ボスのエリベルト・ラスカーノが死亡しました。その際にロス・セタスが当局からラスカーノの遺体を盗み出すのに成功し、メキシコ当局の面目をつぶすということがあったほど、この集団の影響力は甚大でした。
reference:curiosityaroused