今まで観測された中で最も遠方にある、巨大な回転円盤銀河が発見されました。私たちが住む銀河のような円盤銀河は宇宙の至る所にありますが、かつてこれほど大きく遠くにあるものが発見されたことはなく、その誕生は宇宙年齢の10%に相当する初期にまで遡ります。銀河はDLA0817gと名付けられ、ネイチャー誌に研究結果が掲載されました。
亡き天文学者アーサー・M・ウルフの名を取って「ウルフ」の愛称で呼ばれるこの銀河は毎秒272kmの速さで回転し、その質量は太陽の720憶倍にも達します。チリにあるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(アルマ望遠鏡)の観測結果は、DLA0817gのような巨大円盤銀河がビッグバン後60億年頃に形成されたとする従来の宇宙モデルを真っ向から覆すものでした。
研究リーダーを務めるマックス・プランク天文研究所のマーセル・ニールマン氏は声明でこう述べています。「高密度のガスを伴う初期の回転円盤銀河については従来の研究でも存在が示唆されていましたが、アルマ望遠鏡のおかげでビッグバン後15億年に実在したという明白な証拠が得られました。」
銀河はより小さな銀河が何度も合体し、熱いガス塊を捕捉することによって成長すると信じられています。このプロセスはカオス的なもので、形成された不安定な銀河は何十億年もかかって安定度の高い秩序立った銀河へと変化していきます。しかしウルフ銀河の存在を説明するためには明らかに別のメカニズムが必要となります。共同研究者であるカリフォルニア大学サンタ・クルーズ校のJ・ゼイヴィア・プロチェイスカ氏は言います。「ウルフ銀河は主として冷たいガスが間断なく付着したことによって成長したものと考えています。ただそのような巨大なガス体を、どうしたら比較的安定した回転円盤の形を保ったまま集積できるかについては謎のままです。」
ウルフ銀河は私たちの銀河の10倍もの速度で星を形成しています。これは同時期の宇宙において最速であるばかりか、全宇宙での最高値でもあります。なお数値の算出に当たってはカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA電波望遠鏡)とハッブル宇宙望遠鏡(NASA/欧州宇宙機関)の協力を得ています。
ウルフ銀河が最初に発見されたのは2017年、観測チームが遠方にある高輝度クエーサー(活動銀河の一種)を調査している時のことでした。クエーサーの光量がウルフ銀河を取り巻く巨大な水素の雲によって変化したことにより、比較的暗い銀河の発見に至ったのです。
ニールマン氏は言います。「この手法で発見できたことから、ウルフ銀河が初期に存在した銀河としてはありふれたタイプであることが分かります。アルマ望遠鏡を用いた最新の観測によって銀河が回転しているという驚きの事実が判明したことで、初期の回転円盤銀河が思っていたほど珍しいものではなく、他にも多数存在しうることが分かったのです。」
reference:iflscience