辛味
実際には辛味は味覚ではありません。辛さは人の体を刺激する痛み。
この痛みを抑える際に人間は強い快感を覚え、これが人体の構造に紐づく人間が辛さを求める理由です。
辛い食べ物の代表格である唐辛子にはカプサイシンと呼ばれる辛味成分が含まれています。
しかし、このカプサイシンが足元にも及ばないレベルの辛味成分が存在するのです。
それはレシニフェラトキシンと呼ばれる物質です。無論、食べるべきものではありません。
ということで今回は、驚異的な辛さを持つ化学物質「RTX」についてご紹介したいと思います。
私たちがなにかを「辛い」や「スパイシー」という際、それは「TRPV1」と呼ばれる受容体を持つ、熱に反応する神経を活発化させています。
この受容体は通常、高温のものや酸に身体が晒されたとき、痛みを感じる神経を刺激するもの。
つまり、スパイシーなものを辛いと感じるのは、脳が火傷をしたと感じているのです。
唐辛子に含まれる化学物質であるカプサイシンは、この受容体を強く活発化させます。
そのため、唐辛子を食べると人々は辛みを感じるのですが、「RTX」とも呼ばれるレシニフェラトキシンはカプサイシンでは比べ物にならない辛さを引き起こすのです。
研究室での実験によれば、レシニフェラトキシンはカプサイシンの100〜10,000倍も強力。
彼らは、辛さの程度を「SHU」とも呼ばれるスコビル辛味単位で表します。
この単位は、それを作り出した薬剤師のウィルバー・スコヴィルからその名前が取られました。
彼の1912年の論文で、「SHU」は唐辛子の濃縮液を、人が感じられなくなるほどまで薄めるのに必要な値であると定義されています。
例えば10スコビルは、1対10の希釈率で薄めると辛味がなくなる、という意味です。
この単位を使うと、ハラペーニョは2,500から8,000スコビル、カロライナ・リーパーは150万から200万スコビル、そして純粋なカプサイシンは1,600万スコビルということになります。
しかし、「RTX」はそれらとは比べものにならない、驚異の160億スコビル。
そのヤバさが少しは理解できることでしょう。
ですが、安心してください。ホットソースにおいて、「RTX」が含まれているものはありません。
科学者たちによれば、M&Mチョコレート10粒に相当する10グラムの「RTX」を食べると、人は死に至るとのことです。
相当危険なため、これを研究する科学者たちは火傷を負わないよう、手袋とマスクを身につけています。
そんなに危険なスパイスなら、狂った科学者によって作られたのではないかと思われるかもしれませんが、実際これはモロッコに生息するサボテンのような植物から作られます。
さらに、不思議に感じるかもしれませんが、科学者たちは「RTX」を医療用として、痛みの治療に応用できないかと研究しています。
なぜなら「RTX」は痛みを感じる神経を非常に強く刺激するので、しばらくすると神経は疲れ果ててしまいます。
つまり、痛みを感じなくなるか、死ぬか、という結果になります。いずれにせよ、脳に送られる痛みの信号が少なくなるというわけです。
医療における「RTX」は非常に興味深いですが、とても危険な物質です。ですから治療のためやカレーのスパイスだと言って口にしてはいけませんよ?