チンパンジーの心臓を精密に分析したところ心臓内にユニークな骨があり、心臓病や不正脈、果ては「突然死」の発生にすら関りを持つことが初めて明らかとなりました。この発見は絶滅の危機にあるチンパンジーの健康管理と種の保存に役立つ可能性があります。
これは「心臓骨(os cordis)」と呼ばれる数mmの小さな骨で、牛やバッファローといったウシ属などいくつかの動物種に見られるものです。ノッティンガム大学獣医学部の研究チームが「 Scientific Reports」に掲載した報告によれば、突発性心筋線維症と呼ばれる心臓病を患ったチンパンジーがこの骨を持つことが分かりました。
この心臓病は捕獲されたチンパンジーの主要な死因の一つとなっています。大学で研究リーダーを務めたカトリン・ラトランド博士は声明の中でこう述べています。「新たな種で新たな骨が発見されることは稀で、特にヒトと似た構造を持つチンパンジーであればなおさらの事です。これにより人間にも心臓骨を持つ者がいるのではないかという疑問が生じます。」
野生のチンパンジーは国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種として扱われています。循環器系の病気も多く、1990年から2003年にかけて捕獲中に死んだチンパンジーの成体中4分の3以上が罹患していたとの報告もあります。
チンパンジー(学名Pan troglodytes)の心臓が健康を維持する目的でいかに機能するかを理解するため、研究チームは「マイクロCT」と呼ばれる先端映像化技術を用い、健康なチンパンジーと心臓病のあるチンパンジー16体の心臓を撮影しました。この技術は解像度が高く、年齢、死因、性別、併存疾患の有無と合わせてそれぞれの心臓の構造や形態を比較する事が可能です。
心臓病を患う場合にはどの心臓にも骨または軟骨が形成されており、近傍の組織にコラーゲン量の増加が見られました。これに対し、健康な心臓に骨や「心臓軟骨(cartilago cordis)」は見られませんでした。
心臓骨の機能は未だ明確ではありませんが、研究チームはこの発見によって骨の形成がどのように始まるかを知ることができると考えています。一説には骨の形成が主要な心臓弁を補佐すると考えられますが、他の説によれば骨は心臓病、不整脈、あるいは突然死の結果として生ずるものだとされています。
共同研究者であるソフィー・モワティエ氏は言います。「心臓病のチンパンジーを助ける道を探すことは重要です。彼らの心臓に起こることを理解すれば健康管理の助けとなるからです。」サンプル数は少ないのですが、研究チームは軟骨および骨の存在と心臓に関わる問題との間に「有意な相関」があると考えています。関連性を解明できれば野生かどうかに関わらず、将来チンパンジーの健康管理と種の保存に役立つ情報を提供できるようになるかもしれません。
reference:sciencealert