去年中国のYutu-2月面探査機が月の裏側の小さなクレーターで発見した奇妙な『ゲル状の』物質がようやく特定されました。画像解析結果と地球にあるアポロのサンプルを比較したところ、これはまさに月にあるだろうと期待されていた岩だったのです。
具体的に言うと、この岩は隕石衝突の衝撃の熱で溶けたもので、深緑色の光沢があるガラス質の塊です。
「嫦娥(じょうが)4号は月の裏側の南極エイトケン盆地(SPA)の中にあるフォン・カルマン・クレーターを横切った際に、深緑色のキラキラ輝く衝突溶解した角礫岩を発見しました。」と研究チームは論文に記しています。
「これは衝突によって溶接、接合されたことによって月の表土と角礫岩が凝集したものです。」
このキラキラと輝く物質は2019年6月後半にYutu-2によって初めて画像に収められ、翌月中国政府が認可した科学ブログOur Spaceが発行しているYuta-2活動日誌の中で公開されました。
この物質は非常に乾燥してほこりっぽいといわれる月面で発見されるものには通常使われない『ゲル状』と表現されています。後に発表された画像を見ると本当に光沢がありますが、衝突で解けていると推測できるようなゼラチンのようにしっとりとしたものには見えません。
しかしYutu-2に搭載したパノラマカメラ、可視近赤外線イメージング分光器(VNIS)、ハザード回避カメラによって撮影された画像の詳細な分析はこのゲル状という仮説を後押ししています。
特にVNISで撮影した画像によって、中国科学院のシェン・ゴウ氏は仲間とともに物質や周辺の表土(誇りや砂利)から反射した光を分解し化学組成を特定することができました。
この分析によると、表土はおもに斜長石(45%ほど)、輝石(7%)、カンラン石(6%)と標準的な月の物質で構成されていました。しかしガラス質の物質は、おそらく光が弱いためか解明が少し難しかったのです。唯一分かったのは斜長石が38%と豊富にふくまれていることだけでした。
これは周辺の表土と異なるものではなく組成は似ていると考えられます。研究チームはさらにその材質の色は深緑で大きさはおよそ50×16cmであることがわかりました。
これはアポロ15号と17号のミッションで得た月の石15466と月の石70019の2つのサンプルとよく似ています。クレーターから取った両サンプルは、岩と微細物質が硬結してできた角礫岩に分類されています。どちらも月の表土に黒いガラスが硬結したものなのです。
研究チームはこの物質は隕石の衝突によって作られたのだろうと結論づけました。隕石が衝突した時に表土を溶かし、溶けていない表土と混じり合って角礫岩ができたものです。
しかしこれは発見されたクレーターで起きたとは限らないのです。というのも表土はおそらく2つの異なるクレーターの物質の混合物なので、別なクレーターで形成された物質が放出し、今回Yutu-2が発見したクレーターに着陸した可能性もあります。
さらに、クレーターの幅は2mほどで、衝突した隕石の直径はたったの2cmであると推定されます。52×16cmの衝突溶解を起こすには小さすぎるわけです。
「ですから、衝突溶解した角礫岩は発見した場所で作られたのではなく、ほかの場所で起こった衝突溶解でできた角礫岩が放出し2mのクレーターにたどり着いたと考えられます。」と研究チームは論文に記しています。
しかしこの研究には限りがあります。分析するための実際のサンプルを持っていないのです。前述にもあるように光も弱いのです。昨年の8月にはこの場所から移動してしまったので2度目の画像送信は得られそうにありません。
それにも関わらず、持ち合わせたデータをもとにした分析結果は非常に驚くべきものです。謎の月の粘液の水たまりを心配する必要はないと知り、やっと安心することができるのですから。
この研究はEarth and Planetary Science Lettersに掲載されています。
reference:sciencealert