科学技術が発達した今日の世界では、かつて神秘とされていたものが次々に解明され、単なる現象へと変わっています。過去の人類が「神の御業に違いない」と考えたことも、科学全盛の現代に生きる私たちにとってはタネの割れた自然現象なのです。
しかし、そんな時代にあっても、手付かずの神秘が数え切れないほど存在している場所があります。そう、宇宙空間です。
宇宙には大量の星々が存在していますが、地球に最も近い惑星である「金星」でさえも数々の謎が秘められているのです。
この金星はどのような環境なのでしょうか?我々は金星に住むことができるのでしょうか?
今回は硫酸の雨が降る地獄の星「金星」についてご紹介したいと思います。
金星は私たちが暮らす地球と非常に似ている惑星であり、ときには「双子」とまで表現されることもあります。
地球によく似た平均密度と公転軌道を持ち、大きさにいたっては、地球の直径が約1万2750kmであるのに対し、金星の直径が約1万2100kmほどであるため、ほぼ同じくらいです。
密度と大きさが地球に近いがゆえに、当然重力の値も近くなります。岩石や金属などで構成される「地球型惑星」の中でも、数値的な面でまさしく「双子」のように似ているふたつの星。
ならば地球外生命体の存在を夢見る私たち人類にとって、金星が最優先の調査・研究対象になってしかるべきとも思えますが、宇宙開発のニュースで聞こえてくるのはもっぱら火星の話題であり、金星はなかなか登場しません。
地球にこんなに似ている惑星なのに、一体なぜなのでしょうか。
それは金星の過酷な環境にあります。
金星の地表は約460℃という鉛の塊をドロドロに溶かしてしまうほどの灼熱の世界で、気圧は水深900mの深海と同じくらい高いのです。
さらに、空には濃硫酸の雲が浮かび、その雲からは硫酸の雨が降り、さらに降り注ぐ硫酸の雨は地表に届く前に熱で蒸発してしまいます。
硫酸に触れれば私たちの肌は焼け、蒸気を吸い込めば肺が損傷しますから、それはまさに地獄の光景であるといえるほど、人間にとっては厳しい世界が広がっているのです。
そのような理由から、現在生命が存在する可能性が低く、また調査も困難である金星には、しばらくの間あまり関心が寄せられていませんでした。
しかし実は近年、その注目度は急速に高まっています。
それは両者がよく似ている一方で生命の有無という絶対的な相違点を抱えているため。
他の異なる点を比較することで、生命誕生の条件について研究を進めることができると考えられているのです。
よく似ている地球と金星が持つ大きな違いのひとつに「海」の存在が挙げられます。
少なくとも地球の生命にとって海は欠かすことのできないものであり、当然「生命誕生の鍵を握るのも海」と言うことができるでしょう。
しかし、「金星には海が生まれなかったから生命が誕生しなかった」という認識には少し齟齬があります。
なぜなら、少なくない数の研究者が太古の金星には海があったと考えているためです。
双子である地球と金星の誕生直後の環境は非常に似通ったものだったといいます。
当然金星にも水が存在していたし、ゆえに海が生まれていた可能性はあります。
ところが、太陽との距離のわずかな違いが、双子の運命を分けました。地球よりわずかに太陽に近いがために温度が高かった金星では、多くの水が蒸発して失われてしまったのです。
海が生命誕生の鍵であることを踏まえると、それはこう言い換えることができるかもしれません。
「今は失われてしまったかもしれないが、金星にも生命が存在していたのかもしれない」
人類にとって硫酸の雨が降る地獄の星「金星」は、むしろ神秘や希望に満ちた星なのです。