肉食動物による家畜の捕食や、その結果報復として肉食動物を殺すことは、世界的な動物保護における重要な課題です。このような人間対野生動物の対立は大型肉食動物の減少を推進させる重要な要因であり、共存するためのコストは南の発展途上国の農村地区にとって大きな負担となります。
最近のアプローチとして、例えばフェンスで家畜を肉食動物から隔離するか、殺処分による個体数管理をする傾向がありますが、常に可能であるわけでも望ましいわけでもありません。大型肉食動物も生活環境もどちらも守る代わりとなる効率的で殺処分に頼らないツールが早急に必要なのです。
新たな研究の中で、私たちは家畜のお尻に目を描くことで攻撃から家畜を守る方法について述べていきます。
ライオンやトラを含む多くのネコ科は待ち伏せ型の捕食動物です。つまり彼らは獲物をつけまわし、不意を突いて仕留めます。獲物に姿を見られると狩りを放棄することもあります。
そこで私たちはボツワナのオカバンゴデルタ地区でライオンやヒョウによる家畜の損失を減らすことが出来るかどうかテストを行いました。
このデルタはボツワナ北西部に位置する湿地帯で雨季には平地が水で満たされるところで多くの野生動物が住んでいます。ユネスコ世界遺産に登録されており、デルタの一部は保護区に指定されています。しかし、家畜は保護の対象から外されていて、牛とバッファロー間の接触や病気の伝染を避けるためにフェンスが張られています。
大型肉食動物やゾウを含むほかの野生動物は自由にそこを横切ることができ、この地区では大型肉食動物による家畜の損失はよくあることです。
研究ではまず待ち伏せ型捕食動物に焦点を当て、家畜を狙っている動物のほとんどがライオンであることがすぐにわかりました。研究中にライオンは18 頭の牛を殺したのに対し、ヒョウは1頭、ブチハイエナは3頭しか殺していませんでした。
最終的に、ライオンは牛のお尻に目が描かれていると攻撃する可能性が低いということがこの研究でわかりました。つまり、シンプルかつ費用対効果の高い方法が共存するためのツールの候補に入れることができることを示唆しています。
保護区との境界に沿って農民と野生動物の戦いは激化しがちで、多くのコミュニティが野生動物との共存のために多額のコストをかけています。ボツワナのオカバンゴデルタもその例外ではなく、農民は小さな非営利畜産業を運営しています。
家畜がライオンやヒョウ、ハイエナ、チーター、アフリカの野犬などとつき合っていかなくてはなりません。
牛を守るために、群れ(6~100頭)は夜間には囲いの中に入れます。しかし、捕食されることが圧倒的に多い日中は牧草を食べるためにほとんど囲いの外に出ているのです。
ボツワナ捕食動物保護団体や地元の家畜農家たちと協力してライオンの攻撃に苦しんでいる14の群れの牛に目を描きました。4年間でトータル2,061頭の牛がこの研究に携わりました。
夜間に入る囲いから解放する前に各群れの3分の1の牛のお尻にニセの目を描きました。もう3分の1はシンプルにバツ印、残りの3分の1には何も印を付けませんでした。合計49回に渡って行われ、それぞれ24日間観察しました。牛は首輪を付け、みな同じ地域でエサを探し、同じような行動をしていたので、みなリスクの高さは同じです。しかし、目を描いた牛たちは何も印をつけていない牛やバツ印をつけた牛よりもはるかに高い確率で生き残ったようなのです。
実際、『目がついた』683頭の牛は4年間の研究の間に1頭も捕食動物に殺されませんでした。一方何も印をつけていない牛は835頭中15頭、バツ印「をつけた牛は543頭中4等が殺されました。
この結果によって捕食動物が獲物に見られたと認識することで狩りを放棄するだろうという私たちの直感を裏付けることとなりました。
しかし、他にも驚きの事実が判明しました。
ただのバツ印を描いた牛も同じ群れにいた何もつけていない牛よりも生き残った数がかなり多かったのです。これは予想外でした。
理論的観点から見てこの結果は興味深いものでした。目の模様は多くの動物、特にチョウや魚、両生類、鳥には一般的な模様ですが、哺乳類には捕食から身を守る目の模様がついている動物はいません。実際私たちの知る限り、目の模様が大型捕食哺乳動物の抑止力となったことを示したのはこの研究が初めてです。
以前に行われた目に対する人体反応に関する研究では検出するという仮説を裏付けていましたが、もしかしたら人間と野生動物の衝突を防ぐ、または犯罪行為を減らすといった実際の状況で行動変容のために使うことが出来るかもしれない固有の反応かもしれません。
可能な制限
私たちの実験計画では群れには常に印をつけていない牛が必ずいたことに気づくことが重要です。ですからことわざで言うところの『生贄の羊』がメニューに載っていない状況でも効果があるのかははっきりとわかりません。さらに研究を進めることで明らかになるでしょう。しかし、群れの中でも価値の高いものに印をつける方法が実用的と言えるでしょう。
さらに、慣れについても考慮することが重要です。つまり、捕食動物は次第に見慣れて抑止効果がなくなるということです。これは殺処分以外のほぼ全ての方法で問題となっていることです。この方法が長期間有効であるかどうかはまだわからないのです。
家畜の野生捕食動物からの保護、または肉食動物自体の保護は非常に大事で複雑な問題で、実用的で社会介入を含む一連の方法を適用する必要があります。 目を描くという方法が肉食動物対家畜の抗争を抑制する方法に加えられる一方で、私たちは何一つ特効薬となるものはないことを覚えておかなくてはいけません。家畜と大型肉食動物の共存を成功させるためには特効薬以上に行動が大切です。広がりつつある殺処分以外の方法の一環としてこのシンプルかつローコストなアプローチで農民の共存対策費用負担が軽くなることを望んでいます。
reference:sciencealert